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満開の桜 ページ5

「田中さん、ってなんかよそよそしくね?」
「そうですか?」
なんかこういうの。初めてかもしれない。

「ほぼ初めましてですもんね」
「まあ、そうだね」
女の子に言い負かされてる感。
でも嫌じゃない、この感じ。

まだちょっと寝ぼけてぽやぽやしてる
俺をほっといて、


爆睡してる男たちの隙間を縫って、
君は静かに上着を羽織って、自分のバッグを手に取った。


「もう帰んの?」
ふと腕時計に目をやると、午前4時すぎだった。

「たぶん、大丈夫です」
「たぶんて。泊まってかないの?」
「カナさんがいるときはたまに。でも今日は目も覚めちゃったし」
「女の子1人で危ねえよ、俺が送る」
「申し訳ないです」

何度か押し問答があった末に、彼女が引き下がってくれて
俺が送ることになった。


しんとした深夜、というか明け方。
それでも春の匂いが濃いように感じる。




「ほんとにいいのに」
まだ言う。わがままな女だ!いやわがままは俺か?
「なんかあったときは俺たちが困るから」
「そうですよね…ごめんなさい」

強気な風に見えていた彼女の語尾が小さくなって、
急に意地張ってたのがバカらしく思えた。

「いや、まあ、俺が送りたかっただけだから、とにかく」






「ほんとは、桜が見たかったんです」


「え?」
「明日でもいいし昨日も見たけど、どうしても今見たくて」
しっかり前を向いて言った。

「ちょっと先の公園、桜満開なの知ってますか?」
「聞いたことはあるけど、行ったことはない」

「一緒に行きませんか?」
彼女の誘いは突然だった。


「ちょっと遠いけど」
そう俯く君の手を握りたくなった。
でもまだ、俺にそれをすることは許されていない。




少しずつ夜が明けていくにつれて、
時間の経つスピードが早くなる。

「っ…すげー…」


気付いたら、その桜の前で数分立ちすくんでいた。

風はない。
満開の桜の木がただそこに堂々と根付いている。
でも紺色の空が、雲が、オレンジに染まっていくのを見ると時間だけが動いているのを感じる。


ふたりで何も言わずに、ただ桜の木を見ていた。

ふと我に帰って横を見ると
凛とした横顔が綺麗で、思わずその名前を呼んだ。
「Aちゃん」
「はい」
くるっと俺のほうを振り返ったAちゃんの髪が揺れた。


「…帰ろっか」
「はい」
どうしたらいいんだろうな、こういうときって。

俺は本当の恋のやり方を知らなかったんだなって
このとき初めて思い知った。

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つき(プロフ) - sailさん» 素敵なコメントまでくださって、とてもうれしいです( ; ; )こちらこそ、ありがとうございました。今日はいい夢が見られそうです。 (2020年12月10日 12時) (レス) id: 7ed4157c8a (このIDを非表示/違反報告)
sail(プロフ) - とってもとっても素敵な作品すぎてコメントさせていただきました。ふたりのもどかしい距離にキュンキュンしました!素敵なお話をありがとうございました。 (2020年11月9日 13時) (レス) id: 68c0c1ca67 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:つき | 作成日時:2020年5月5日 0時

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