銀河女傑伝説 (ページ3)

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ロイエンタールとミッターマイヤーが話に花を咲かせていた頃。
時刻は既に遅くなっていたが、ラインハルトの元帥府には未だに灯りが点っていた。

そこで書類を見つめるドライアイスのように冷たい瞳。オーベルシュタインである。

「ヴィクトーリア・パウラ・フォン・イェーガー」──ラインハルトの陣営に突如参加を申し入れて来た、何処となく真意の読めぬ怪しい女。
ビッテンフェルト辺りに「お前が言うな」と突っ込まれそうではあるが──実際問題としてラインハルトには敵が多い。門閥貴族連中の手先と疑ってかかるべきであるし、そういった仕事は自分に向いた話である──と、オーベルシュタインは思っていた。

彼の机の上に並べられた数々の書類──幼年学校、士官学校での成績表や素行調査、軍に入隊してからの戦果、果ては健康調査まで──には、ヴィクトーリアが如何に理想的な将兵かが、事細かに記されているのだった。

例えば──幼年学校では、下級生を見下すようなことはせず、いつも優しく振る舞っていた。それでいて規律違反はきっちり取りしまる。また戦意旺盛、弁論にも優れているという。
特に、ラインハルト陣営の者にとっては、軍規を乱さないことは絶対条件の一つである。やるべきことをやらず、ルールから逃げようとするのは、腐った貴族のやることだ。

アスターテの会戦においては、無能なエルラッハ──彼は同盟軍を反転迎撃しようとし、戦死した──の揮下にあったが、いち早く同盟軍に喰らいつき、兵士と艦の損耗を最小限に抑えた、というのである。

オーベルシュタインは、その手に持った書類に目を滑らせた。義眼が妖しく光り──彼は笑った。ごく親しい者が良く良く見つめ、それでようやく判るかどうか、という程度の、控えめ過ぎる反応ではあったが。

兎も角、彼女はこの気鋭の元帥府に迎えても差し支えないだろう。記録から見るに、オーベルシュタイン自身のように周囲との軋轢も生まなそうである。

そして何より──この特殊な出自。

余りに特殊過ぎて、成る程、門閥貴族の息がかからない訳である。オーベルシュタインが笑ったのは、そのためだったのだ。
さぞ嫌われたことだろう、と思う。

最早彼の中では既に、ヴィクトーリアを登用することは決まったようなものだ。こういう人間は信用できる。彼の勘はそう告げている。