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ヴィクトーリア・パウラ・フォン・イェーガー大佐−−帝国内に於て奇特な女性士官、その上貴族出身だというひとの噂が、ラインハルトの元帥府で飛び交っている。
「卿はどう思う」
「どう、とは？」
ロイエンタールとミッターマイヤーも、ちょうどその話を槍玉に上げたところだった。「『あの』貴族出身の女のことさ」
その口調には、必要以上のスパイスが効いているように、ミッターマイヤーには思えた。彼はロイエンタールが、漁色家でありながら女性不信であることを知っている。
「『有能な士官』だという以外には、あまりないな」
ミッターマイヤーは答えた。「そうか」ロイエンタールは短く応じる。
実際、イェーガー大佐は優秀過ぎるほど優秀であった。帝国に当たり前のように蔓延る女性蔑視−−それをものともせずに大佐まで出世しているのである。アスターテやアムリッツァにこそ参戦していないものの、確かな武勲を立てていることは明白だった。
おまけに長身で、射撃にも優れているらしい。ミッターマイヤーは取りなすように言った。「それほど優秀なら、同志と迎えて損はないだろう」−−彼の親友は、何かが不満であるようだから。
「しかし……貴族だぞ」
「卿だって貴族じゃあないか、オスカー・フォン・ロイエンタール？」
『フォン』の辺りを強調しながらミッターマイヤーは笑った。笑いながら、頭の中をかき回してみる−−しかし彼の頭は、イェーガーという貴族家に覚えはないようだ。何も浮かんでは来なかった。「何か悪い噂でもあるのか？」
「いや……俺も……良く思い出せん、」
「ほら、その程度のことだろう？卿は考え過ぎさ」
記憶にも残らないという程度ならば、大貴族であるということはまずない。それに、何か善からぬことを考えて近づいて来たのなら−−例えば、スパイとか−−ラインハルトやキルヒアイスが見抜けないはずはなかった。
「そうか……そうだな、」ロイエンタールは少しだけ笑顔を見せた。女性ならば誰でも虜になるという、甘く美しい笑み。左右の色が違う『金銀妖眼(ヘテロクロミア)』が細められる。
−−そのあとの話は、概ね彼女には関係のない話だったので割愛する。
同じ頃−−イェーガー大佐の情報書類を見つめている者がいた。
パウル・フォン・オーベルシュタイン少将である。
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作者名：こんぺいとうくん | 作成日時：2018年8月1日 8時
