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リップシュタット戦役。
ゴールデンバウム王朝銀河帝国の貴族社外を二分した、非常に大きな内乱−−巨大な戦力を持つ門閥貴族と、それを排除し、帝国を刷新せんと目論んだ帝国元帥、ラインハルト・フォン・ローエングラムとの戦いだと思ってくれればよろしい。

ラインハルトはその開明的な思想から、民衆−−いわゆる平民たち−−には人気があった。しかし、その日暮らしで日々の糧を得るのに精一杯な平民が、大規模な戦力を有していようはずもない。ラインハルト軍の兵力は、門閥貴族より一段劣っていた。
ラインハルトは目下、どのようにして味方を増やすか、ということに悩んでいたのである。

この物語の始まりは、そんなラインハルトの私室のドアのノックの音だった。

「…………?」
ラインハルトは顔を上げた。アイス・ブルーの瞳が怪訝そうに細められ、長い金のまつ毛は白磁の頬に濃い影を落とす。まったく比類なき美貌であった。
隣に立っていたジークフリード・キルヒアイスがそっと目配せする。ラインハルトは頷いた。二人の間には言葉など要らないのだ。

キルヒアイスは扉を開けた。と−−

「ご機嫌麗しゅう、ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥閣下」

敬礼と共に、そんな言葉が投げかけられた。透き通った声だった。−−そこに立っていたのは女性だったのだ。

既にヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ−−後にラインハルトの首席秘書官となる女性−−が訪ねて来ていたから、彼女の用件も何となく予想できた。今度の戦、ラインハルトに味方しようと言うのだろう。

「お初にお目にかかります、閣下。小官は、」

彼女はそこで、一度言葉を切った。意欲的で、人の心を惹き付ける話し方をする女性士官であった。

「小官は、ヴィクトーリア・パウラ・フォン・イェーガー大佐と申します」

ラインハルトは迷信や験担ぎには興味のないタイプの人間だった。しかしそれでも、彼の形の良い眉は、糸で吊られたかのように跳ね上がった。

『ヴィクトーリア』−−旧い言葉で『勝利』という意味の名を持つこの女性を、いくらラインハルトであろうとも無下に追い払うことはできなかったのである。

二→



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作者名:こんぺいとうくん | 作成日時:2018年8月1日 8時

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