出逢ったときの話・三 ページ5
「……えっと……」
何と応えるものか……。
僕は内心頭をかかえた。
ずぶ濡れなのは実際、とても厭だった。けれど、だからといって人様のうちに−−ましてや見ず知らずの男の−−うちに、こんな時間に押しかけて善いのだろうか。
そもそも−−彼が何者かすら判っていないのに。
「心配するな」
取って食いやしねえよ。彼は笑った。
「手前が心配だから言ってンだ、」その目はとても優しそうだ……
傘を傾けてくれて、僕は雨を避けられるようになる。その時には既に、僕の気持ちは「お家にお邪魔する」に傾いていた。
自分の身が濡れるのを厭わず、僕を心配してくれる彼は、きっと優しい人だ……そう、思った。単純だ。
後に、それは正解でもあるし、間違いでもあると、僕は気づくことになるのだけれど。
「本当ですか?闇オークションに出したりしませんか?」
「しねえ」
「お家に行ったら、いきなり黒服に袋叩きにされたりしませんか?」
「いやされねえよ」
「あの……迷惑じゃ、ないんですか?」
彼の顔に笑みが浮かんだ。「よし、行こうぜ」僕の問いには応えず、彼は歩き出す。
何だか、嬉しくて堪らなくて−−僕は慌てて、彼のあとを追った。後ろから傘を傾ける。親切にしてくれた人にはそのお返しをしなければ、そんな単純な一念で。
「僕のために、風邪は引かないでくださいね」
そう云うと、彼の笑顔はいっそう深くなった。
道すがら、僕たちはほとんど無言だった。彼について、判ったのは一つだけ。
『中原中也』
それが、彼の名だということ。
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こんぺいとうくん(プロフ) - コミュ障の極みさん» ありがとうございます〜!!頑張ります!DA、中也さん格好良過ぎでした… (2018年3月16日 21時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
コミュ障の極み - デッドアップル観れなかったァァ!あと面白いです!更新ファイトです! (2018年3月15日 18時) (レス) id: 0c405ae39e (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとうくん(プロフ) - 真昼さん» あ、あ、ありがとうございます…!(コミュ障)すごい嬉しいです…頑張ります!! (2018年3月10日 15時) (レス) id: 89d22ed41a (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - すごい面白いです、頑張ってください! (2018年3月9日 23時) (レス) id: 85666cc382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとうくん | 作成日時:2018年1月29日 17時