この夜が明けたら【冨岡義勇】

晩餐会 ページ10

(※しのぶ視点)




約束の時間の数分前には、産屋敷邸の庭園にAさんと宇髄さんを除く柱全員が揃った。

月の綺麗な夜。

その下で私達は各自色とりどりの着物に身を包んで、時を待っている。


胡蝶「えーと、冨岡さんは....」


いたいた。いつも通り遠くにひとりぼっち。

冨岡さんは濃紺に薄墨色の雪輪が映える羽織に身を包んで、物静かに立っていた。


胡蝶「とーみおーかさん」

冨岡「....胡蝶か」

胡蝶「またそんな所にひとりぼっちですか。みんなのところへ行けばいいのに」

冨岡「俺はいい。それより、Aの姿が見えないが」

胡蝶「ああ！彼女なら、今宇髄さんと一緒に任務に行かれてますよ」

冨岡「.......そうなのか」


冨岡さんたら、目に見えてシュンとしちゃった。


胡蝶「冨岡さん。ノロノロしていたら、奪われちゃいますよ？宇髄さんに」

冨岡「......」

胡蝶「.....素直じゃないですねえ」




。

。



先刻、蝶屋敷に宇髄さんが来た。

なんでも、このタイミングで仕事が入り隣町まで行くことになったとか。


胡蝶「可哀想ですが...きっと宇髄さんはお館様に信頼されているんでしょうね！私達は私達で、ゆっくりお食事を楽しんでいます」

宇髄「いや、Aも連れてくぞ」

胡蝶「....は？^_^」

宇髄「ほら、冨岡もAもお互い全然歩み寄らないだろ？じれったいつーか...」

胡蝶「確かに冨岡さんは少し、危機感が足りていないように見えます」

宇髄「そう！だから俺がど派手に奪い取る、フリをするって訳！」

胡蝶「なるほど....(短絡的に物事を考える阿呆ですね)」

宇髄「ま、晩餐会が終わる前には多分戻ってくるからよ」

胡蝶「お2人が途中まで居ないのは寂しいですが、任務なら仕方ありませんね」

宇髄「ああ。またあとでな」

胡蝶「お気を付けて」


フリ、だなんて嘘は良くないですよ、宇髄さん。

そんな寂しそうな目をしておいて。



。

。



胡蝶「まあ、冨岡さんにその気が無いのなら、仕方ありませんね」


私は半ば吐き捨てるように言った。

冨岡さんは心中複雑な思いだったのだろう。

普段は崩さない真顔に、少し怒りの色が見えていたから。



冨岡「宇髄はAを好いているのか」

胡蝶「さあ。でもそれは冨岡さんには関係のない事ですよ。大切なのは冨岡さんの気持ちでしょう」

冨岡「..........俺は」









『『お館様の 御成です』』



2人の剣士を欠いたまま、無情にも晩餐会が始まった。

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