閉じ込めた初恋 ページ25
私はその日、全てを失った。
元々あんな小さな手で抱えられる物なんて大してないのに、そんな小さな幸せさえも失った。
母親が死んだのだ。
物心つく前の記憶というものは、成長と共に頭からするりと抜け落ちるのが常だ。
だがその記憶はこびり付いて落ちなかった。
床に就くと、死んだ母親が現れた。
顔を手で覆って大粒の涙を零しながら、ごめんね、ごめんねと震える声で繰り返す。
私はお母さんを恨んでなんかないよ、もう泣くのはよして、とお願いしているうちに目を覚ます。
その夢を見た朝は、いつも枕が涙で濡れていた。
本当は独りが辛かった。
母と一緒に死ねば良かった。
毎日が"死にたい"気持ちとの戦いだった。
______しかしそんな私にも、辛い気持ちを忘れられる時間があった。
それは、義勇さんと過ごしている時。
鱗滝さんの門下生になって初めて出会ったのが彼である。
私も義勇さんも年端の行かぬ子供であったが、いつも彼は大人びていた。
鍛錬も怠らず弱音も吐かない姿。
私が彼に憧れを抱くようになるまで時間は掛からなかった。
彼に認められたい一心で、義勇さんの知らない間に沢山刀を振った。両手は血豆だらけで、肺は今にも破れそうだったけれど、彼を想うと頑張れた。
1日の終わりには、すぐ彼の元へ駆け寄った。
今日は何をしたとか、誰々がこんな物を見つけただとか、つまらない内容も面白がって聞いてくれた。
両親がいない分、義勇さんの優しさに甘えた。
ぽっかりと空いた穴を、彼1人で埋めて寂しさに耐えた。
ある時彼に、こう言われた。
"ふざけるな!その我儘な性格が故に親に捨てられたんだろう!お前なんて最終選別に受かる訳がない!"
たった1人に想いを寄せるという事は、その1人が私を捨てた時、私は孤独になるという事なんだ。
義勇さんが私を捨てたら、私はとうとう生きる意味を無くす。
彼を好きになってはいけない。
私はその時にそう感じた。
しかし何故か翌日から、彼はまるで昨日の発言など嘘だったみたいに接してきた。
甘えておいで、という構え方だった。
私がどんな迷惑を掛けようと気にしない風を装った。
でも私はもう怖くて、甘えることは愚か少しでも彼に迷惑を掛けたらその都度気味悪がられるほど謝った。
ごめんなさいという言葉の裏側に、嫌いにならないでという気持ちを忍ばせて。
私は恋心にまで蓋をした。
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ぱくいしこ(プロフ) - さちほさん» ありがとうございます!!!続編そろそろ、明日くらいに出しますので、そちらも宜しくおねげします!!!(T ^ T) (2019年12月21日 14時) (レス) id: b7bc820701 (このIDを非表示/違反報告)
さちほ - とても感動しました…!!ぜひぜひ続編を!!!!!待ってます!!!(初コメ失礼しました<(_ _)>) (2019年12月19日 0時) (レス) id: f2ed4fa8a3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱくいしこ(プロフ) - 陽向さん» 嬉しいです(号泣)ありがとうございます!続編楽しみにしてて下さい頑張りマッス!! (2019年12月19日 0時) (レス) id: b7bc820701 (このIDを非表示/違反報告)
陽向 - 絵がかわいい!!何かほっこりしました。この作品すごく好きです!これからも頑張って下さい! (2019年12月18日 18時) (レス) id: 2a559184c7 (このIDを非表示/違反報告)
ぱくいしこ(プロフ) - ハミイさん» 絵まで褒めてくれて嬉しいです(血涙)。かまぼこ権八郎も描こうかなーウヘヘ(^O^) (2019年12月17日 10時) (レス) id: b7bc820701 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぱくいしこ | 作成日時:2019年12月8日 22時