【歌い手】この世界の片隅に【短編集】 (ページ29)

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そらるさんの暖かくて優しい声が、私を甘やかす

どうしてこの人はこうも優しいのだろうか

怒鳴られてる店員を、わざわざ助けに入る客なんていない

ましてや…理不尽になれるななんて、他人を頼ることを諦めるななんて、言われたことない

誰にも言えなかったことを的確に当てられたことなんてなかったのに…

｢な、んでｯ……なんで……そんなことｯ……｣

｢…似たようなやつがいてね。まぁ、Aちゃんの方が重症だけど｣

｢重症って…｣

｢重症だよ。別にね、 Aちゃんの全部をダメだって言ってる訳じゃないよ。ただ、頼ることをやめて、1人で溜め込んで、自分を殺しちゃわないで｣

そんなの悲しいよ。なんて言って、優しく私を包むそらるさん

この人は……大人だけど私の知る大人とは違う

私の知る大人は身勝手でエゴイストで、冷たいものだ

こんなに…暖かくない

ようやく冷ました目頭がまた熱くなる

あぁ、もう。

せっかく止めたのに

また泣いちゃうじゃんか

｢優しくしないでって、言ったのに…！｣

｢ふっいいよ。泣いちゃいなよ。どうせいつも我慢してるんでしょ？｣

泣いていいよ。なんて、いつぶりに言われただろうか

子供の頃は、泣けばうるさいと言われ、押し入れに隠れて声を押し殺して泣いていた

中学生の頃は、泣けば恥ずかしいと言われ、深夜に布団の中で静かに涙を流した

高校生になる頃には、涙を流さなくなった

そして、変わらずに今こうしてここにいる

今日を抜いて、最後に泣いたのはやっぱりそらるさんのせい

優しさに慣れてなかったぶん、なんだか嬉しくて泣いてしまったんだ

それは今も変わらないけど……

でもきっと

他の人じゃダメだった気がする

そらるさんだからこそ

そらるさんの言う言葉だからこそ

私は救われてるんだ

｢ねぇ、Aちゃん。LINE交換しよ？俺今東京に住んでて全然会えないけど、LINEならいつでも会話できるでしょ？溜め込まないで俺に話して？｣

｢…別に…そらるさんに頼らなくても他に……｣

｢嘘言わないの。いたらここまで泣かないでしょ？｣

図星だった

私に何かを相談できる、ましてや愚痴を言えるような人はいない

私の反応を感じたのか、そらるさんが身体を離しスマホを出すように催促してきた

渋々スマホを出すも、気持ちは驚くほど軽かった。

この世界の片隅で、

再会した泣き虫とお兄さんの話ーーー