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数年ぶりにあった女の子―――Aちゃんは、昔よりも少しだけ背が伸び、髪も伸びた
そして……変なところに耐性がついてしまったみたいだ……
目の前で必死に涙を乾かそうとしているAちゃん
その姿は数年前と変わっていない
ほんの数か月、お店で会う程度の付き合いであった俺たち
たったそれだけ関係。
その程度の関係で踏み込むのはどうかと思うけど……
「Aちゃん……」
どうしても、放っておけなかった……
「……なん、ですか?」
「嫌なことは嫌でいいんだよ?受けて入れちゃわなくて……いいんだよ」
浴びせられる罵声に微動だにせず、ただ用意された謝罪を述べていた彼女の姿が頭をよぎる
メラメラと燃える男に比べ、湖畔のような静けさを持っていた彼女
まだ若い女の子が諦めてしまっている姿が、なんでか見てられなくなった
だから横やりを入れたときは、この女の子がAちゃんなんて思わなかったんだ
そのあと覗き込んだ彼女の顔。
男を見送る彼女の瞳には、なにも、なんの感情も宿っていなかった
それがなんか嫌で、知り合いだとわかったらもっと嫌で……
俺は……
「そらるさん。そらるさんは……優しいですね」
「……へ?」
「昔も、今も、知らない子のために行動して。久しぶりにあった私の心配をしてくれてる」
そんな人ほとんどいませんよ。そういいヘラっと笑って見せたAちゃん
その笑顔がひと昔前のあいつに……俺の名前を呼んでは変な行動をする男に似ていて、やっぱり俺は嫌な気持ちになった
何も言わなくなった俺に未だに笑顔を向けるAちゃん
怒られるなら怒られるでいい
嫌われてしまうのならそれもしょうがないだろう
そう覚悟をしたうえで、Aちゃんの腕を引き腕の中へ引きいれた
すっぽりと俺の胸に収まるAちゃんは、
状況がまだわかっていないのか、きょとんとした顔をしている
そんな彼女の後頭部と背中に腕をまわし、抱きしめた
「ちょ!そらるさん!なにしてッ」
「Aちゃんは……もうちょっと人を頼っていいんじゃないかな」
「……何言って……私は頼ってますよ?先輩店員の人たちとか……」
「違うよ。なにがあったかわからないけど…理不尽になれちゃダメだ。誰かに頼ることをあきらめちゃダメだ」
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作者名:武蔵野 三歩止(ムサシノ ミホト) | 作者ホームページ:なし
作成日時:2019年7月1日 16時