Flower of Figment (ページ10)

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遠くの人を思うページ10

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---そんなこともあったな。

缶のサワーをあおりながら、YouTubeの動画を流し見る。
つい最近おすすめにジャニーズＪｒチャンネルが表示されてから、なんとなく日曜日は昔を懐かしむ日になっていた。

あの頃。思春期を拗らせて、特有のとがり方をしていた黒歴史。
初恋の人のたったひと言が、わたしの人生を変えた。

『どーも！ HiHi Jetsでーす！』

ティッシュケースに立てかけたスマホの画面の中で、懐かしい顔が爆笑している。
ついついつられて笑ってしまうのも、あの踊り場の出来事に引っ張られてしまうからだろう。

猪狩くんとは卒業してから一度も会っていない。
なんなら、あの日以来一度も話していない。
迷惑をかけることは本意ではなかったから、いくら恋をしていたって何かアピールするでもなく。
ただ、別々の方を向いて、そのまま中学を卒業した。

中学生のとき、たったひと月隣の席だった人。
それでも、今のわたしを動かしているのはほかでもない猪狩くんだ。
今でも好きとか、そんなこともない。
すっかり遠くなってしまった彼に、あの日を懐古しているだけ。

思い出の人だ。長い年月が、猪狩くんを思い出にした。
それでよかった。

『あ、もしもしA？』
「ん－？なに、どうしたの珍しい」

YouTubeを止めてかかってきた電話を取ったら、聞こえてきたのは中学以来の親友の声だった。

『ほら、今年わたしら成人じゃん？
　久々集まろうって話になってんだけどA来る？』
「え、いつ？」
『来月。先生も来るらしいよ。覚えてる？中二のときの担任のハゲ』
「こら。選択的薄毛と言いなさい」
『それ！よく言ってたよねあのハゲ！覚えてんじゃん』

昔話に花を咲かせている間に、YouTubeのことはすっかり頭から消えていた。
親友の彼女もあの日のことは知らない。
きっとわたしの初恋を幼稚園の頃足が速かったたっちゃんだと勘違いしていることだろう。

『なんか知らんけど、あのー、覚えてるかな、カンちゃんの元カレがさ』
「元カレ？あー……」
『そいつにA来るか訊けって言われたんだよね』

カンちゃんの元カレとは、あのときわたしを突き飛ばした彼である。
あのあとわたしが本当に何でもない顔をしていたからか、すぐに友達と付き合いだした。
その彼が、いったいどうして？

『めんどくさいやつだったじゃん。
　カンちゃん別れるのに二か月かかってさ』
「あーね」
『なーんかめんどそうだし来なくてもいいと思うよ』

＊