Flower of Figment (ページ6)

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忍耐ページ6

＊

「……あの、わたしべつに、好きじゃないです」
「は？」
「いや、猪狩くんに不用意に接触するとよくないかなって思っただけで、他意はないです」
「なんだよそれ」
「だから、変に関わるとこっちまで面倒だなって思っただけ。だから猪狩くんに頼まなかっただけ」

勘違いさせたらごめんなさい。
最後にそう締めくくると、彼は顔を真っ赤にしてわたしを睨んでいた。

きっとプライドを傷つけてしまったのだ。
もう少し言葉を選べばよかったかもしれない。
慌てて次の言葉を継ぎ足そうと顔を上げたら、彼は握りしめた拳をわたしの方に差し出していた。

---あ、なんか、まずいかも。

そう思った瞬間、すごい勢いで肩を押されて、

「え、」

伸ばした手は空を切った。
落ちる、と思って、衝撃に備えて目をかたく瞑った。
でも、感じたのは痛みではなく、何かに包まれるようなあたたかい感触だった。

---痛く、ない。

「何やってんだよ」

振り返ると、いるはずもない右隣の彼。

「え、……い、がりく、」
「おまえが悪いんだよ！ブスのくせに！」

一瞬は、やば、という顔をしたくせに、なかなか辛辣なことを言って左の彼は走り去って行った。
当のわたしは、突き落とされそうになったショックで呆然とその背中を見つめることしかできない。
猪狩くんの意外としっかりした体に包まれながら、ぼんやりと心臓の音だけを聞いていた。

「……あのさ」
「ぅえっ」
「いつまで寄っかかってるつもり？」
「あ、ごめん！」

慌てて背中にあった熱から離れる。
階段の段差で少し、猪狩くんを見下げる格好だ。
いつもと違う目線から見た猪狩くんは、はじめてしっかり目を見たせいか、なんだかかっこよく見えて。
びっくりして、のけぞった。

「……何？」
「ご、ごめん。猪狩くん、もう戻った方がいいよ。次の授業始まっちゃう」
「Aさんは？」
「え？」

猪狩くんがわたしの名前を知っていたことに驚いて、思わず聞き返す。
目の前の彼は、ふてくされた顔を隠そうともせずにまっすぐわたしを見ていた。

「だから、Aさんは次の授業どうすんの？」
「あ、わたしは……」
「出るんだったら大したメンタルだね」
「……そうだね」

さっきの彼は左隣の席にいる。
戻って授業を受けるには少し勇気のいる状況だ。

＊