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Aster Tataricus(Hi/緑) ページ5




わたしの初恋は、中二のとき。
偶然隣の席になった、ジャニーズJr.の猪狩くんだった。

「……よろしく」
「う、うん」

最初は、なんだかすごく怖い人だと思った。
だって目力強いし、愛想もないし、あんまりしゃべらないし。
まあ彼の立場を思うとしかたないことなのかもしれないけど。

アイドルについてまったく詳しくなかったわたしは、猪狩くんに対しても、ただのクラスメイト以上の興味はなかった。
だからといって世間話をするでもなく、ただ、隣の席に座っている者として、静かに、迷惑をかけないように、過ごしていた。

少なくとも、今後彼とどうこうなる気なんてさらさらなかった。
席だってずっとこのままなわけじゃないし、いつかはまた移動するし。
とりあえず右隣はあんまり見ないようにして、教科書を忘れたら左隣の人に見せてもらった。
べつに左の人の方が接しやすかったとかではなく、単に猪狩くんとのことで面倒に巻き込まれたくなかっただけだ。

だけど、左の彼はそうは思わなかったみたいで。

「Aさんってさ、俺のこと好きでしょ?」
「……え?」

移動教室の帰りに呼び止められて、階段の踊り場で少しだけ立ち話。

自分で言うのもなんだけど、わたしはけっこう冷たい人間だと思う。
ひとりで生きていけるし、他人に興味ないし、愛想笑いも苦手。
だからこのときも、本当は世間話なんて早く切り上げて、次の授業の準備をしたかった。

なんてことを、相槌を打ちながらうわの空で考えていたのがよくなかったのだろうか。

「だって、いつも俺に教科書見せてって言ってくるじゃん。猪狩じゃなくて。
俺に気があるんじゃないの? 俺、Aさんだったら付き合ってもいいよ」
「は?」

なんなんだこいつは。どうしてこんなに上から目線なんだ。
猪狩くんに迷惑をかけたくなかっただけで、なんでこんな面倒なことになってしまったんだ。

目の前には、なぜか自信満々でふんぞり返っている左の彼。
お世辞にも、モテる容姿とは言いがたい。
どこから湧いてくるんだその自信は。

とにかく誤解を解いておかないとまずいことになる。
経験上、恋愛沙汰の面倒事は避けて通るに越したことはない。
男女間のトラブルほど厄介なものはないのだ。
まあわたしは美人でも人好きのする性格でもないので、ここまで巻き込まれずに生きてこられたわけだけど。

さすがに、これはなんとなく、まずい気配。



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めがね - すごく素敵な文章に心が満たされます。あなたの言葉の表現をこうやって物語にして形にしてくださって、ありがとうございます。 (11月11日 4時) (レス) @page12 id: 5aa7ecfc5a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ヨリ | 作成日時:2023年3月6日 22時

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