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忍耐 ページ18




「あのさあ、あんた檜山のこと好きなの?」

必死の形相でわたしに迫る彼女を見て、こんなことって本当にあるんだ、というのが正直な感想だった。

女子トイレって、聖域みたいだな。
ずっとそう思っていた。だって、女子しか入れない。
先生たちだってよほどの理由がない限り入ろうとしない。
最近はとくにセクハラだのなんだのと騒がれやすいし、女子トイレは本当に、女子生徒だけの居場所だ。
その聖域は侵されない。何があっても。

「だから、どうなの?」
「え、っと」
「好きなら悪いんだけど、諦めてね? あたしの友達、もうすぐ檜山と付き合うんだよ」
「はあ……」

もうすぐ、ということは今は彼女でもなんでもないわけで。
つまり今わたしに何かを強制できる理由は何もない。
しかも、目の前の彼女は本人じゃなくて友達ときた。
自分で言えないことを人に頼んで言ってもらうなんて、ダサすぎる。

でもそれを正直に言う勇気もない。
しかたなく、黙ったまま、聖域の汚い床を見つめた。

「委員会が一緒ってだけで、調子乗んない方がいいよ」
「う、うん」
「わかったら仕事だけしてなね」

最後にわたしの肩を押して、彼女はトイレを出て行った。
その場に座り込んで、手に持ったポーチを握りしめる。

わたしだって、檜山くんの彼女になりたい。なれるものなら。
でも現実的に考えて、そんなことは絶対にありえないのだ。
あの人気者の檜山くんがわたしを選ぶことなどあってはならない。

---わかってる。

もしわたしが少女漫画のヒロインなら、さっきの子はわたしを校舎裏に呼び出す。
詰め寄られているときに、絶対に檜山くんはわたしを助けに来る。
わたしはヒロインじゃない。
檜山くんはヒーローじゃない。

好きだというだけで、どうしてこんなに苦しめられなければいけないのか、意味がわからなかった。
だけど世の中はそういうものだ。
結局、わたしは誰かのストーリーの脇役にすぎない。
だからどんな理不尽も、我慢して耐えるしかない。

だって、わたしはヒロインじゃないから。


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めがね - すごく素敵な文章に心が満たされます。あなたの言葉の表現をこうやって物語にして形にしてくださって、ありがとうございます。 (11月11日 4時) (レス) @page12 id: 5aa7ecfc5a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ヨリ | 作成日時:2023年3月6日 22時

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