汚れなき愛 ページ14
*
わたしがこの辺鄙な村の中でいちばん好きな場所。
それはこの村全体が見渡せる小高い丘だった。
「作間さん、疲れてないですか?」
「いえ、大丈夫です」
「ここ、空がよく見えるんですよ」
丘にはおおきな木が一本生えていて、心地よい風が吹き抜ける気持ちのいい場所だ。
深呼吸をすると、ひとつ背中が軽くなるような心地がする。
「よく見えるでしょう、この村が」
「はい、……きれいだ」
「えっ」
遠くの空を見つめる作間さんは、男の人に使うには変な言葉だけれど、どうしようもなく美しかった。
「きれいです。俺は都会にしか住んだことがないから……」
「あ、そ、そうですか」
「はい。Aさん、あれはなんですか?」
「ひぇっ、」
---嘘、笑った!?
村の端に立つ建物を指さして、作間さんがわたしに向かってうすく笑う。
そのかたちのいい唇が、弧を描きつつ優しい印象を主張した。
「あ、あれは、役場です。村役場の分所で……」
「分所?」
「ここはちいさい村だから、向こうのおおきな村の役場と合同なんです」
「へえ、そういうこともあるんだ」
少しずつ作間さんの口調が崩れて、表情も多く出るようになってきた。
それがなぜだか、途方もなく嬉しかった。
「いいところですね、ここは」
「えっ、あ、あの、それさっきも言ってましたけど、なんで……」
「……この村には今朝着いたばかりだけど、もうたくさんの人の優しさに触れました。
東京にいた頃は考えられなかった。俺は家でも厄介者だったから……。
この村でなら、あたたかく生きていけるような気がします」
その瞬間、なんとなく悟った。
この人は汚れのない愛を持っている。
この人となら、いい家庭を築いていける。
この人と結婚したい。
---作間さんの、妻になりたい。
「……Aさん、その、」
「はい」
「急な話で申し訳ないとは思っているんですが」
「はい」
「この見合いを、受けていただけませんか」
もう、わたしに選択肢はない。
だって思ってしまった。
この人とともに歩んでいきたいと。
「……はい!」
*
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めがね - すごく素敵な文章に心が満たされます。あなたの言葉の表現をこうやって物語にして形にしてくださって、ありがとうございます。 (11月11日 4時) (レス) @page12 id: 5aa7ecfc5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨリ | 作成日時:2023年3月6日 22時