Flower of Figment (ページ2)

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尊敬ページ2

＊

わたしと黎ちゃんは、もともと幼馴染だった。
家が隣同士で、家族ぐるみで仲良しで、大きくなったら結婚しようね、なんて言ってたレベルの、幼馴染。

正直、あの頃の黎ちゃんのどこが好きだったのか、いまいち覚えていない。
ずっと一緒にいるうちに、兄妹愛のようなものがいつの間にか恋心にすげ代わってしまったのかもしれない。
でも、それでも、一緒にいられるならなんだってよかった。

『黎ちゃんだいすき！！』

あの頃はなんのためらいもなく言えていた。
好きというただそれだけの感情が、大人になったらこんなに重くなるなんて知らなかったから。

『黎ちゃん！』

いつも黎ちゃん黎ちゃんなんて彼の後ろをついて回っていた。
同い年なのに、面倒見のいい黎ちゃんはお兄ちゃんみたいで、大好きだった。
でもあのときから、黎ちゃんはわたしの前で一度もお兄ちゃんの顔をしない。

『黎ちゃん、わたしね……黎ちゃんのことが好き』
『ん、ありがと。俺も好きだよ、Aのこと』
『……違う』
『んー？何が？』
『わたしの好きは、彼女にしてほしい方の好き、だよ』

我慢を知らなかったこどものわたしがそう言ったのは、もう何年前だっただろうか。
それから今まで恋人として過ごしてきたけど、大学生になってお酒の味も覚えたわたしは、もう立派な大人だ。
ひとつふたつ年を重ねたくらいで何も変わらないと思ってたけど、どうやら思い違いだったみたい。

だって、昔は尊敬してやまなかった黎ちゃんの優しいところが、今は憎くてしかたがないから。

好きになってはいけなかった。この恋は間違いだった。
わかっていたこと。あんなに優しい人が、自分にだけそれを向けるなんてありえない。
それなのに、恋をしてしまった。
蓋ができない破れ鍋には、なんの意味もない。

「……ほんとは、別れたくないよう……」

でも優しい黎ちゃんが好きなのだ。
その優しさがわたしだけのものじゃないってだけで、拗ねるような女になってしまった。
変わったのはわたし。変わらなかったのは黎ちゃん。

---たったそれだけのボタンのかけ違い。

もう、取り返しがつかない。

＊