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「…っと、もしもし!」
彼女は慌てた声で電話に出て、すぐに土方に遅れたことを謝罪した。
土方の前でもその真面目な姿は何一つ変わっていないようで、ほっとする。
「ど、どうしたんですか。急に」
「掛けちゃあまずかったか」
「いえ…土方さんから電話くるなんて、珍しいなと思って」
だんだんと尻すぼみに小さくなっていく声。
何を話していいか分からず、えっとえっとと戸惑う彼女に思わず笑みが零れた。
「今日、Aの姿を見た」
そういうと、
「そうそれですよ!」
彼女は怒ったように声を上げる。
不機嫌そうな顔が目に浮かぶようだ。
(くそ…会って話したくなる)
唇を舐め、視線を地面と空を行ったり来たり。
熱心に仕事をする彼女の姿を見るだけで飽き足らない自分の、Aへの執着心にむず痒くなる。
「来るなら言ってくださいよ。
ちょっとでも時間つくったのに…」
「悪い。時間が取れるか分からなかったから連絡入れなかったんだ。
次行く時は連絡する」
土方の言葉に、Aは少し間を空けて言った。
「…別に、来る時だけじゃなくてもいいですよ。
顔見はしたいですけど…声でも…全然…」
彼女の言葉に思わずはっとする。
無駄なことはしたくない、仕事一筋で生きてきたせいか、人の感情とやらをあまり見ていなかった自分がいたことに気づく。
土方の周りには常に仲間がいる。
仕事でも日常生活でも。
皆同じ場所で寝食を共にしている以上、その空間にいるわけで。
しかし、彼女は違う。
そのような状況から一変して、慣れない場所での仕事と帰宅しても空っぽの家に一人。
屯所の時の日常とは真反対といっても過言ではない環境だ。
そんな中で、孤独や寂しさを感じないわけがない。
(それに気づいてやれなかった俺は)
きっと大変な仕事もあっただろう。
その感情を抱えて一人で誰にも話さず過ごすには、あまりにも酷だと答えは容易に想像できた。
「いつなら時間がある」
「えっ?」
「帰宅時間だ。お前が暇してる時間にまた掛ける」
ただ電話の約束を取り付けるだけなのに、心臓の音が煩い。
「よ、夜8時以降であれば…。残業…になりそうだったら、死ぬ気で終わらせますから!」
明るい声でAは言う。
それに影響されて、
「…楽しみにしてる」
ふっと笑みが零れた。
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Nattu(プロフ) - amefurasi750さん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです;;銀魂のキャラはどの子も魅力的なので自分もそれをあまり崩したくない意識で書いていました^^どストライクとのお言葉嬉しすぎます;;本当にありがとうございました! (2022年12月13日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
amefurasi750(プロフ) - ありがとうございました!すごく心に残る話で、土方さんや沖田君たちの性格がそのままで安心して読むことができました!尚且つ土方さんと主人公ちゃんとのイチャイチャ具合がドストライクでした! (2022年12月8日 8時) (レス) @page32 id: 0bed4b2b02 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年9月1日 23時