弐十六 ページ26
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重い空気の中、上司と部屋でいるのが辛くなり、厠に逃げていた時だった。
「おいお前らいい加減に!」
ちょうど店先の方から松平の怒号が聞こえてきた。
何事かと思い、急いで出てみれば、
「おっ。うちの大事な姫様の登場でぃ」
「総悟、てめ、離せ!」
「土方さん落ち着いてください!Aごめん話しちゃった!」
「うるせえ落ち着いてられっか!」
大暴れする恋人とそれを止める同僚達。
それを掻き分けて
「よっ。A、とっつぁん。
俺達に内緒で話進めようなんて水臭いじゃないっすかあ」
歯を見せた近藤が現れた。
ちょうどその時、上司も騒動に気づいて駆けつけて、
「なんだ、これは…」
「お前は下がっていなさい。Aさん、近藤。少し話せるか」
戸惑う息子を制し、父親は別室へと促した。
沖田達に抑えられながらも土方はぎろりと上司を睨みつける。
冷徹な彼がこのように取り乱しているのはそう頻繁にない。
それが自分のことでだなんて想像もつかなかった。
別室に移動し、土方達と向き合うようにして座る。
そして、上司の父親は落ち着いた口調で問うた。
「松平。このことは近藤達には話していなかったのか」
「い、いやあ。あいつらは関係ないかと思って」
普段偉そうにしている彼はぺこぺこと頭を下げながら言葉を濁す。
そんな松平を一瞥した後、彼の視線は土方とAを交互に見る。
「…それで、君たちは交際関係にあるのかな」
彼はもう組織にはいない。
いくら土方が役職についていようが、彼の交友関係まで深くは知らなかったのだろう。
否、知らなかったも同然だ。
きっと彼の息子である上司はAに恋人がいない前提で話をし、自分との縁談をしてほしいと頼んでいるはずだからだ。
このような場に移されてきた土方は急に大人しくなり、俯いていた。
そして、小さく頷く。
「…取り乱してしまい大変申し訳ございませんでした。
私に知らぬ間に縁談となっており、居ても立っても居られな」
「いや。土方君の言うことはよく分かる。
Aさん。君の話も聞きもしないで勝手に話を進めてしまって悪かったね」
彼は深々と頭を下げた。
そして、部屋の前の廊下で聞き耳を立てる上司に怒鳴りつける。
彼の父親はそう悪い人ではなさそうだ。
「…さて、松平。後は若いもんに任せようか」
土方達を見る優しい目で見、松平は引きつった顔で去っていった。
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Nattu(プロフ) - amefurasi750さん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです;;銀魂のキャラはどの子も魅力的なので自分もそれをあまり崩したくない意識で書いていました^^どストライクとのお言葉嬉しすぎます;;本当にありがとうございました! (2022年12月13日 0時) (レス) id: 3f1ef1106e (このIDを非表示/違反報告)
amefurasi750(プロフ) - ありがとうございました!すごく心に残る話で、土方さんや沖田君たちの性格がそのままで安心して読むことができました!尚且つ土方さんと主人公ちゃんとのイチャイチャ具合がドストライクでした! (2022年12月8日 8時) (レス) @page32 id: 0bed4b2b02 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年9月1日 23時