おとなりさん【熊谷みつ夫】 (ページ21)

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「あ、あの」

『ん？』

そんな日の夜。
宅飲みしてる最中で
俺はAさんのことをもっと知りたく

家庭環境の事を聞くことにした。

「Aさんの御家族ってどんな方なんですか？」

Aさんはさっきまで酔いが回り
かなりふわふわしていたのだが

急に顔つきが変わってしまった

片手に持っている缶ビールをテーブルに置き
小さくため息をついている

『…聞きたいの？』

「まぁ…Aさんとの将来を一応考えてるんで。」

『んー、面白い話じゃないよ？』

Aさんは少し含み笑いをすると
俺の肩に頭をよせ

耳元で過去のことを語った

『私のお母さん、私を産んだ時に亡くなっちゃって。だから生まれつき私父子家庭でさ。

お父さんは私をちゃんと育ててくれたけど
歳を重ねるにつれて暴力暴言も増えちゃって。

私北海道から来てるんだけどさ。
逃げるように高校の時から弓道の推薦で東京来たんだ。

今はもう連絡もしてない。それだけだよ。』

「…不謹慎ですけど、それがなかったら俺はAさんのこと好きになれてなかったです。

弓道で東京来てくれたから。」

少し頬を赤らめて俺の瞳を見つめる彼女は誰よりも、何よりも輝いていた。

宝石のように。いや、宝石なんかじゃ表せない。

Aさんは俺に軽くキスを落としてから
残りのビールを飲み干した。

『なんか湿っぽくなっちゃったね。
今日泊まってく？』

「え、ああ。じゃあ俺明日の服とか持ってきます」

"同棲したいです"

なんて言えたらどれほど楽か

嬉しそうに寝る準備をする彼女を
俺は今すぐにでもそばに起きたい。