おとなりさん【熊谷みつ夫】 (ページ20)

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「両親？聞いたことないな」

俺はある日、少し悔しくはあるが裏道さんに
彼女の家族構成について聞くことにした

「確かに俺にも教えてくれなかったかも」

「聞いていいと思いますか」

「あーでも、一応父子家庭とは聞いてたな。」

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「熊谷お前さーAさんと付き合ってんの？」

ある日、兎原からそう聞かれた。
そういえばAさんは周りに言ったのだろうか。

何か言われて困ることがないか

勝手に俺が言っていいのか

「…さあな」

「なんだよー！教えてくれよ～熊谷～」

すがりついてくる兎原を蹴飛ばし俺は

スタジオへと向かう。

照明の場所には明らかに照明の光よりも

眩しい女性が立っていた。

『どうした？』

「あ、いや。なんでもないです」

朝も一緒に来たのに変な感覚だ。
大学の時から好きだった人と付き合えている

こんな奇跡があっていいのか

思えば俺はとても単純なことでAさんを
好きになったのかもしれない。

-大学時代

「初めまして。福井から来ました。熊谷みつ夫です。よろしくお願いします。」

何となくやってきた弓道。
特別上手い訳でもなくて

家族がスポーツを勧めてきたわけでもなく。
それでも人並みには打ち込んできた方だ。

入部してから1ヶ月

4年生の人達は引退に向けて
とても切羽詰まった様子だった。

それでもその中に、余裕を持った
勇ましい人がいた

俺は前々からその人が気になっていたが

その人が人と話しているところを見た事なく
タイミングもなかったため中々話しかけられなかった

気になり始めてしばらく経った頃

その人が体操部で有名な表田裏道と話しているところを見てしまった。

とても楽しそうに、見たことも無い笑顔で。

不意にも俺は、自分にもその笑顔を向けて欲しいと思うようになった。

引退式の日にはその人の弓道姿を目に焼き付けた
とても美しくて、格好が良かった。

『熊谷くん？だよね』

「え？あ、はい」

引退後のミーティングが終わったあと

初めて、その人と話すことが出来た

とても心臓が痛く、胸が高鳴ったのは
未だに覚えているものだ。

『前から話しかけたくてさ。
熊谷くんの弓道に対する姿勢大好きで。

引退する前にこれから頑張ってねって応援したくて』

「っ…！」

この時

確実に俺が恋に落ちた日だった。