渋谷事変 最終夜 ページ22
這いつくばる真人の前に、男が笑っていた。
夏油と呼ばれた男の額には縫い目があり、袈裟を着ている。
五条を封印した男だ。
「返せ……!」
目的のものが目の前に現れた。
ならば、なにがなんでも取り返さなければならない。
「五条先生を返せ!!」
痛みに燃える体を引きずり、Aは駆けた。
「ナマズが地震と結びつけられ、怪異として語られたのは江戸中期」
夏油は微笑みながら、喋りだした。
手のひらの中から呪霊がずるりと出てくる。
「地中の大ナマズが動くことで地震が起こると信じられていたんだ」
踏み出したAの片足が、宙を踏んだ。
更地に突然穴が空いたのだ。
Aは体を支えられず、穴の中に落ち――
「え」
たわけではなかった。
ひっくり返った先には地面があった。
背中には硬い土がある。
「落ちたと思っただろう」
夏油が近づいてくる。
Aはすぐに立ち上がった。
「傍から見れば君が勝手にひっくり返っただけなんだがね」
なにが起こるかわからない。
それがAの頭の中で警鐘を鳴らしていた。
「呪霊操術の強みは手数の多さだ。準一級以上の呪霊を複数使役し、術式を解明、攻略されようとまた新しい呪霊を放てばいい」
夏油の足元で呪力が蠢いた。
「もちろんその間を与えずに畳みかけるのもいいだろう」
無数のムカデがAを襲った。
拘束するように体を覆う。
「こんなもの……!」
呪霊ならば振り払ってしまえばいい。
動こうとした瞬間、パッと地面に穴が空いた。
さっきのものと同じだ。
地面があるとわかっていても、足に力が入らなくなった。
次の瞬間、頭上から滝のようにムカデが降り注いだ。
「去年の百鬼夜行」
顔が、腕が、背中が足が、全身から血がほとばしる。
「新宿と京都に戦力を分散させなければ勝っていたのは乙骨ではなく彼だったろう」
あまりの痛みにAは四つん這いになった。
だが、それでもAの目に諦めの色は浮かばない。
「君には関係のない話だったかな」
「……返せ!!」
腹の底から絞り出した、憎悪の声が夏油にぶつかる。
「我ながらさすがと言うべきか。宿儺の器、タフだね」
ズッと伸びてきた真人の手を払い、夏油は真人を見下ろした。
「知ってたさ。だって俺は……人間から生まれたんだから」
夏油の両手が動いた。
真人の体に触れた瞬間、真人が黒い球体へと変形していった。
「続けようか」
それを片手に、夏油は笑った。
「これからの世界の話を」
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ただのバカです - くっそ良かったです。…涙止まらん。完結おめでとうございます! (2022年10月30日 1時) (レス) @page31 id: 37480b1f74 (このIDを非表示/違反報告)
柊(プロフ) - K太さん» K太さん、コメントありがとうございます!年内に完結を目指していたのでそれを達成できて嬉しいです!ここまでお付き合いいただきありがとうございました! (2022年1月1日 7時) (レス) id: 64b7ea7410 (このIDを非表示/違反報告)
マリイ(七海建人の嫁) - ↓の続き 芥見先生に言って建人は正式に承認された私の夫 (2022年1月1日 7時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
マリイ(七海建人の嫁) - 建人は私の夫建人の方からプロポーズして来た建人は私が居ないと私に愛されてないと建人死んじゃう建人は私には超過保護 私はHSPで建人は恩人でもある結婚指輪も付けてる (2022年1月1日 7時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
K太(プロフ) - 年内最後にこの作品を完結まで見れたことが嬉しいです。更新ありがとうございます。そしてお疲れ様です。 (2021年12月31日 21時) (レス) @page31 id: a6028f1a22 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柊 | 作成日時:2021年12月4日 21時