先生と名乗る男 ページ1
人を殴った。
どうなるか気になったから。
犬を殺した。
血がどんなものか気になったから。
父と額を合わせた。
向こうがわたしを抱き上げたから。
幼女は虚ろな目で宙をぼんやりと見ていた。
高架下のこの場所は、滅多に人が通らない。
肩まで伸びた黒髪はボサボサ。
色白の肌にはたくさんの切り傷が。
体に合っていない大きすぎる紫のパーカーに身を包み。
その目に、光はない。
一見死んでいるようにも思えるが、胸はたしかに上下に動いている。
幼女はふと視線を下にし、自分の右手を見下ろした。
成長途中のその小さな手の皮はめくれ、痛々しい赤を覗かせている。人の頬を殴ったらこうなった。
――いたい
殴る前に蹴られた腹が鈍く痛む。
叩かれた頬がヒリヒリと痛む。
額に押しつけられた煙草の痕は、まだ熱を持っているかのように熱い。
はぁ、と幼女は息を吐いた。
とても痛い。でも、幼女はそれを不幸だと嘆くことはなかった。死にたいと思い詰めることもなかった。傷つけてきた人間に怒りを覚えることもなかった。
幼女が物心ついたときには、それが普通だったからだ。
「君、こんなところでどうしたんだい？」
頭の上に影が伸びた。
虚ろな目の焦点がその男に合わせられる。
影を背負っていて、顔はよく見えなかった。
「……おじさん、だれ？」
舌足らずに問いかける幼女に男はただ微笑んだ。
「先生、と呼んでくれ」
そう言った先生は、おもむろにしゃがむと幼女に手を差し出した。
首を傾げながら、幼女はその手に自分の手を乗せた。
「人を殴ったとき、どう思った？」
先生の手はとても冷えていて
「…………おもしろかった」
自分の手もとても冷えていて
「僕は君に、そのおもしろいをたくさん用意できるよ」
人を殴ったとき。
体の奥が震えた。興奮で震えた。それは幼女にとって初めての快感であった。
痛がり、床に転がってもがくその姿に、ひどく高揚した。
「僕と共に来てくれるかい？」
疲れきって動かないはずの体が一気に軽くなる。
気づくと幼女はすっくとその場に立ち上がっていた。血の気のなかった頬に赤みが差し、瞳を潤ませている。
それを答えと受け取ったのか、先生はニィ、と口角をあげた。
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眠 - 最近ずっとヒーロー側の作品しか読んでなかったからたまには敵連合側もいいかな〜って思って初めて主人公が初めから敵連合側の作品読んだけど面白い。まだ全然読んでないけど初めから最後まで敵連合側でも悪くない！これから一気に読み進めるぞー！ (2021年10月1日 19時) (
レス) @page2 id: cfd8dfa5f7 (このIDを非表示/違反報告)
柊(プロフ) - 九音さん» 九音さん、コメントありがとうございます！敵連合のメンバーもこれから出てくるのでどうぞお楽しみに！ (2021年3月23日 13時) (レス) id: 64b7ea7410 (このIDを非表示/違反報告)
九音(プロフ) - 敵連合と弔くんが好きで拝読させていただいてます！これからも更新楽しみにしています！ (2021年3月23日 1時) (レス) id: f3a2c0cf62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柊 | 作成日時：2021年3月21日 18時
