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もしも願いが叶うのならば ページ31

「待って、真人さん!!」

順平が叫んだ直後、巨大化した腕が伸び、Aの体を壁に縫いつけた。

その力は凄まじく、どれだけAが暴れてもビクともしない。

(馬鹿か、あたしは!! つぎはぎ顔の人型呪霊!!)

七海の言っていた、この事件の親玉と一致する。

あのときすぐに気づいて動けていれば……!!

「順平、逃げろ!! こいつとどんな関係かは知らん!! けど今は逃げて!! 頼む!!」

順平はこの呪霊のことを知っていた。
真人と呼んでいた。

きっと真人という呪霊のことを味方だと思っているのだろう。

だが、あいつは敵だ。紛うことなき、敵だ。

「虎杖さん、落ち着いて! 真人さんは悪い人じゃ……!」

ない。

なぜか、順平はそう言いきれなかった。

じたばたともがくAを見上げたまま、順平は言葉を途切らせた。

真人は人間を実験だと称して小さくしたり、大きくしたりしていた。
それを順平にも見せてくれた。
魂の形を変えるのだと、教えてくれた。

けれど、それは本当に、いい人がすることなのだろうか。

「……悪い、人じゃ……」

ぽん、と順平の肩に手が乗った。

人間とは程遠い、氷のように冷たい手が乗った。
じわりじわりとその冷たさは順平の全身へ広がっていく。

Aが握りしめてくれていた両手だけが、温もりを残していた。

「順平はさ、まぁ頭はいいんだろうね」

明日の天気を話すような軽さで、彼は言う。

「でも熟慮は時に短慮以上の愚行を招くものさ。君ってその典型!」

ははっ、と軽い笑い声が男からこぼれた。

「順平って、君が馬鹿にしてる人間の、その次くらいには馬鹿だから」

男の言葉を理解しようと、頭が回る。でも脳はそれを拒否した。

代わりに、Aと交わした会話が、記憶が駆け巡る。

映画の話をたくさんした。
連絡先だって交換した。
順平に、笑いかけてくれた。
手を握ってくれた。

かすかな温もりを繋ぎ止めるように、順平は手を握りしめた。

「順平!! 逃げて!!」
「だから、死ぬんだよ」

Aの叫び声と、真人の冷えた声が順平の頭を内側から叩いた。


もしも願いが叶うのならば。


この温もりの隣で、ずっと生きていたかった。




「無為転変」




.

幼魚と逆罰 ー死ー→←もしも



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(プロフ) - ハルヒさん» ハルヒさん、コメントありがとうございます!私もこの2人が大好きなんです〜!応援ありがとうございます!頑張ります!! (2021年1月13日 23時) (レス) id: 64b7ea7410 (このIDを非表示/違反報告)
ハルヒ(プロフ) - ヒェッ…ナナミン好きやからこの2人のカプ嬉しい…応援してます頑張ってください!!! (2021年1月13日 23時) (レス) id: 46554589d7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2021年1月6日 0時

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