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呪いの王を宿す、その体 ページ44

七海は膝をついた。

「虎杖さん、顔を見せてください」

俯いたAにそっと囁けば、しばらく渋った素振りを見せた後、Aはゆっくりと七海を見上げた。
涙に濡れた飴色の瞳の中に七海が映り込む。

「あなたの気持ち、嬉しいです」

苦しげに、Aの顔が崩れた。

「私も……同じ気持ちです。……ですが」

七海が今から告げる言葉を察知したのか、Aは息を吐いた。
一度目を閉じ、また開ける。

「あなたと私は恋人にはなれない」

へにゃっ、とAの表情が緩んだ。

泣き叫ぶわけでも、怒るわけでもなく、Aは七海の肩を借り、立ち上がった。
七海もそれに合わせて腰を伸ばす。

「言ってくれて、ありがとう」

Aは笑っていた。
無理やりな笑顔だったが、それでもどこか安堵したような笑いだった。

「これで……楽になった」

コーンスープの缶をコンビニのゴミ箱に放り投げる。弧を描き、それは真っ直ぐ吸い込まれた。

カコンッ、と缶がゴミ箱に当たる音が響く。

「ありがとう、ナナミン」

なにに対する礼なのか。

「ごめんね、ナナミン」

なにに対する謝罪なのか。

今の七海に、聞くことはできなかった。

「じゃあ、また今度。次任務一緒になったらよろしくね!」
「……はい。気をつけて帰ってください」

笑顔で手を振る彼女に頷くことしかできなかった。

トッ、とAは駆けだした。
どんどんビニール傘が小さくなっていく。

その後ろ姿が見えなくなるまで、七海はそこを動かなかった。

「っはぁ、はぁ、はぁっ……!」

雨の中、走っていた足を止め、Aは泣いた。
傘が手から滑り落ちる。

「うあぁああああぁあ……!!」

声を上げて泣いた。
泣かずにはいられなかった。

泣いて泣いて、もう涙が出なくなるくらい泣いたあと、Aはよろよろと進み始めた。

「あたしは、もう」

前に進むことしかできない。
この恋を断ち切って、未練など振り切って、そうして死へと向かうのだ。

「…………死にたく、ないなぁ」

どうしてこんなことになってしまったのだろう。
どうして、自分の向かう先には死しかないのだろうか。

答えのない問いを繰り返し、それでも止まることは許されないのだ。

なぜならAのその身は――呪いの王を宿してしまっているのだから。

△▽△▽→←醜い感情



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(プロフ) - あーさーさん» あーさーさん、コメントありがとうございます!虎杖ちゃんかわいいですよね!そう言っていただけて嬉しいです!オチはナナミンで決定しています。今のところ伏黒くんルートは考えておりません……。申し訳ないです汗 更新がんばります! (2021年6月5日 7時) (レス) id: 64b7ea7410 (このIDを非表示/違反報告)
あーさー(プロフ) - コメント失礼します!虎杖ちゃんが可愛すぎませんか??もうこれは推すしかないなぁと思いました!落ちはナナミンで決定ですか?もしよければ恵ルートを書いて頂けないでしょうか...あくまでも一意見なので無視してもらっても全然大丈夫です!更新楽しみにしてます! (2021年6月5日 0時) (レス) id: 300c895943 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - すぴさん» すぴさん、コメントありがとうございます!一気読みもありがとうございます!うれしいです!東堂くんとの会話は書いてて私も楽しいです!この先もハチャメチャになる、かも……!これからもよろしくお願いします! (2021年4月30日 13時) (レス) id: 64b7ea7410 (このIDを非表示/違反報告)
すぴ(プロフ) - とても面白くて一気読みしてしまいました!東堂くんとの会話めちゃくちゃ面白くて好きです!更新楽しみにしてます^ ^ (2021年4月30日 9時) (レス) id: 4a1a097f66 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 餅さん» 餅さんコメントありがとうございます!一気読み……ありがとうございます!虎杖ちゃんかわいいですよね!東堂くんとの絡み、かなりハチャメチャになりそうです笑 応援ありがとうございます! (2021年4月18日 19時) (レス) id: 64b7ea7410 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2021年3月7日 0時

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