呪いの王を宿した少女 ｰ４ｰ〈呪術廻戦／成り代わり〉

諦めるなど ページ32

「なぁ、虎杖」

今から食べたいピザの種類を上げようとしていたAは恵の声に口を閉じる。
なに？ と目だけで答えれば、恵は言葉を探すように目を動かした。

その姿をAは見たことがあった。

交流会前に呼び止められたとき――

「……交流会前に言ったこと、覚えてるか」

Aの考えは当たっていたらしい。

「覚、えてる。忘れないって言ったし……」

ぽぽぽっ、とAの頬が赤く染まっていく。
恥ずかしそうにパタパタと手で顔を仰ぐAに恵はそっと言葉を発した。

「もう一度言うぞ」

彼女の笑顔が好きだった。
危なっかしくて、自分のことなんて二の次で。
目が離せなくなった。

膝の上で握りしめられていたAの手に、恵の手が触れた。

「好きだ、虎杖」

――俺のそばにいてくれ

Aは目をつむり、ぎゅっと顔に力を入れる。
口を開けて、閉めて、再び目を開けた。

「……ごめん、恵」

結果はわかっていた。
彼女の飴色の瞳は交流会前となにも変わっていなかった。

たった一人を想う目。

「あたし、好きな人がいる」

なんとなく、その好きな人がだれなのかわかるような気がした。


『ジャケット貸してくれてありがとう！』
『いえ。構いませんよ。私から提案したんですから。……あぁ、虎杖さん』
『ん？』
『交流会、頑張ってくださいね』


交流会が始まる直前、彼と交わしていた会話が恵の脳裏をよぎる。

頑張ってくださいね。
そう言われたAはとても嬉しそうな顔をしていた。それは恵や野薔薇、五条の前ではしないような、見たことのない顔だった。

(……あの人に勝てるわけねぇだろ)

壁が高すぎる。

「困らせて悪いな」

申し訳なさそうに眉を下げるAに謝ると、彼女は取れそうな勢いで首を横に振った。

「恵が謝ることじゃない！ びっくりしたけど嬉しかったし……あ、ありがとう。あたしなんかを好きになってくれて」
「なんかじゃない、お前だから好きなんだろうが」

タコのように首まで真っ赤になったAに恵は「それと」と言葉を続けた。

「諦める気はないからな」
「えっ！ いや、でもあたし好きな人がいるって！」
「あぁ。でもだれを好きと思おうが勝手だろ」
「や、そうだけど……」

フラれてしまったがそう易々と諦めるほど恵の気持ちは生半可ではない。

焦るAに被せるように部屋のドアが開いた。

「ピザ買ってきたわよ〜」
「ありがとう、釘崎」

ついにAはベッドの上に頭を伏せてしまった。

強く、なる→←十五分

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