呪いの王を宿した少女ｰ２ｰ〈呪術廻戦／成り代わり〉 (ページ5)

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最強の男の決意ページ5

月の出た空を五条はぼんやりと見上げていた。

今の時刻、夜の十時半。
自販機のすぐ横のベンチに座る五条の顔には、彼にしては珍しくハッキリとした疲労が滲んでいた。

彼は今日の午後から、月に一度の実家への帰省を行っていた。見たくもない親や親族たちと顔を合わせ、ひそひそと交わせられる様々な噂を耳にした。
そしてその中には、もちろん彼女の噂もあった。

――さっさと殺してしまえばいいのに

――両面宿儺など……あぁ、恐ろしい

両面宿儺の器、虎杖Aのことだ。

身勝手な噂に反吐が出る。
なにも知らないくせに。ただ表だけを見て判断する上の奴らに、吐き気がする。

忌々しそうに弾き出された舌打ちは意外にも、静かな空に響き渡った。

「お、五条先生？こんなとこでなにしてんの？」

びくっ、と五条は肩を揺らした。
ついさっきまで考えていた人間の声が暗闇から突然すればだれだって驚く。

いつもはポニーテールにしている髪をお団子に結い上げ、Tシャツ短パンを身につけたAが不思議そうに五条を見ていた。
走っていたのか、その首筋にはうっすらと汗が滲んでいる。

「ちょっと休憩」
「お疲れ様！」
「……ありがと」

屈託のない笑顔に、五条は取っていた目隠しをぎゅっと握りしめた。
不意に思ったのだ。

彼女を最後殺すのは、自分だと。

「Aは、こんな時間になにしてんの？」
「ランニング！なんか寝つけなくてさ、動いたら眠れるかなって」

高専内だし、大丈夫だと思ったんだけど……。と言い淀むA。
彼女は理解している。自分が自由に動いていい存在ではないことを。自分が、上層部にどう思われているかを。

「ランニングはいいことだけど、こんな夜遅くは危ないよ」
「そう？あたし、喧嘩なら強いよ！」
「強い弱いじゃなくて、Aは女の子なんだから」

両面宿儺の器だろうと。
類まれな運動神経の持ち主だろうと。
それ以前に、彼女は一人の人間であり、一人の女の子なのだ。

Aはふと口を噤んだ。

「どうした？」
「ん、や、その……。女の子って言ってもらったの、久しぶりで、なんかびっくりした」

照れたように頬をかくAに五条は思わず噴き出した。

「あ、ひど！なんで笑うの！！」
「いやー、ごめんごめん。つい」

死刑など、絶対にさせない。
花のように笑う彼女を殺させはしない。

絶対に。なにが、なんでも。

誰が為に己の命さえ差し出してしまう、優しい彼女を。殺させはしない。