呪いの王を宿した少女ｰ２ｰ〈呪術廻戦／成り代わり〉 (ページ4)

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薔薇の子の願いページ4

「腹減ったぁぁあ！！」
「余計に腹減るからあんたは黙ってなさい」
「ほら、ここだ、ここ」

午前の授業を終え、一年三人は中華料理屋に来ていた。

恵の案内の元、高専からさほど遠くない中華料理屋。店の前ですら、いい香りが漂ってきている。

それに余計に空腹を刺激され、Aに刺々しく言いつつも、野薔薇は真っ先に引き戸に手をかけた。

「いらっしゃい！何名さまですか？」
「三人です」
「お好きな席にどうぞ！」

気さくな店員に迎えられ、野薔薇は三本の指を立てる。Aはいつもの笑顔で店員に頭を下げ、恵は仏頂面のまま席についた。

「なに食べよっかなあ～」

待ち望んでいた昼食に、Aはメニュー表を開いた。それを三人で覗き込む。

「天津飯、ちゃんぽん……悩むわね」
「俺、ラーちゃんぽんで」
「なぁ、野薔薇。天津飯とちゃんぽん頼んで半分にわけよーぜ？あたし、どっちも食べたいし」
「あんた天才か」
「へへっ、それほどでも」

まったく同じことを野薔薇も思っていた。
両方食べたいが、胃袋もそれほど大きくない野薔薇はどちらかに絞ろうと悩んでいたのだ。それを見事に解決するAの提案。

照れたように鼻の頭をかくA。

これだけを見ると、本当にAの中に呪いの王の両面宿儺がいるのかと疑いたくなる。それほどまでに、彼女は純粋で、呪術師にしては珍しく、真っ直ぐだ。

「恵。あとであんたのラーちゃんぽんもちょうだい。あたしのやつも一口あげるからさ」
「ん」
「うっし！」

その素直さは、だれもが惹きつけられる。

今だって、あの無愛想の擬人化(野薔薇の偏見)の恵が緩やかに眉を下げているのだ。
当の本人は気づいていないが。

(無自覚って恐ろしいわね……)

届いたお手ふきで手を拭いながら、ふと思う。

野薔薇は幼いころから呪いに触れてきた。呪いの世界の醜さも、残酷さも、ある程度は理解している。
だからこの先、Aがその汚さを知ってしまったら、彼女の純粋さは、真っ直ぐな心は折れてしまうのだろうか。

まだ出会って一週間も経っていないのに。
Aという少女の存在はあまりにも呆気なく野薔薇の心に入り込んでいた。

願わくば。

隣のAの笑顔が汚れないでほしいと。
そう、強く思う。