映画鑑賞 ページ30
「呪力の源は負の感情。みんなわずかな感情の火種から呪力を捻出する訓練をしてるんだ」
五条はAに背を向けて、ソファーの前のテーブルに山積みになっているなにかを抱えて持ってきた。
「訓練方法はいくつかあるけど、Aにはかなりしんどいのやってもらうよ」
「ど、どんな……？」
やけにハードルをあげる五条に思わずAは生唾を飲んだ。
そして彼の腕に抱えられているそれを手に取る。
「映画鑑賞！」
「映画、鑑賞……」
五条の抱えているもの、まだ机に置かれているもの、Aの手にあるもの。
それらすべてが映画のディスクだった。
いくらなんでも量が多い。
「名作からＣ級ホラー。地雷のフランス映画まで。起きてる間はぶっ通し！ もちろんただ観るだけじゃない」
五条は持っていた映画をAに押しつけ、ソファーに手を伸ばした。
「こいつと一緒に観るんだよ」
にゅんっと姿を現したのはクマの人形。なぜかグローブを両手にはめている。
映画鑑賞だけでもよくわからないのにクマの人形も出てきては余計に混乱する。
「なにこのキモかわいい人形」
「かわいいか？」
Aの美的価値観は置いておいて、映画を床に置いたAは人形を受け取った。
人形は人形なのに鼻ちょうちんを作りながらぐっすり眠っている。
「学長特製の呪骸だよ」
殴られた思い出しかない。
Aは不安そうに眉を八の字にした。
「……で、全然要領得ないんだけど」
「焦らない焦らない。そろそろだよ」
「そろそろってな」
次の瞬間Aの顎に見事なアッパーが炸裂した。
あまりの勢いにバク宙するA。
しかし鍛えられた体幹で地面に着地すると、手を離してしまった人形をしっかりとキャッチした。
じんじんと顎が痛む。
「先生、私の顎、ケツアゴになってない？」
「なってないなってない」
ぶんぶんとまだ殴ろうとしてくる人形をできるだけ体から遠ざけた。
「その呪骸は一定の呪力を流し続けないと目を覚まして今みたいに襲ってくるよ」
「先に言ってよ……」
「メンゴ〜」
へらへらと笑う五条に反省の色はない。
「まずはその呪骸を起こさず、映画を一本無傷で観通すこと」
頑張ってね。とたぶんウィンクをされた。目隠ししてるからわからないけど。
いやしかし、それにしても……。
「……殴られすぎて顎割れないといいけど」
「顎のことめっちゃ心配するね」
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作者名：柊 | 作成日時：2020年12月20日 23時
