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冷てぇな ページ20
「恵は頭がいいからな。あたしよりいろいろ考えてるんでしょ？」
そこに、さっきまで恵と死闘を繰り広げていた女の面影はどこにもなかった。
ただの虎杖Aがいた。
春の日差しのような笑顔を浮かべたAが。
「お前の真実は正しいと思う。だから、大丈夫」
ごぽっ、と口から血が溢れた。
くり抜かれた心臓部分からは滝のように血が垂れていた。
「ごめん、そろそろだ」
全身から力が抜ける。
「恵も野薔薇も。五条先生……は、心配いらないか」
陽だまりのような笑顔を残して、
「長生き、しろよ」
桜の彼女は恵の胸の中に倒れ込んだ。
髪の毛先からぽたりぽたりと雫が落ちる。
赤が絨毯のように足元に広がる。
触れた彼女の肌は酷く冷たかった。
いつかの彼の言葉を思い出し、青年は着ていた上着を彼女にかけた。
硝子細工に触れるかのように持ち上げ、青年はゆっくりと歩き出した。
「……冷てぇな」
冷たいのは、だれだって嫌だからな。
せめて、少しでも暖かく。
――さようなら。
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作者名：柊 | 作成日時：2020年12月20日 23時
