呪いの王を宿した少女 ｰ５ｰ〈呪術廻戦／成り代わり〉

勝利の拳 ページ43

視界の端で脱兎が消える。
男の頭上に恵の乗った満象が現れた。重力にならい、男に向かって落ちていく。

コンクリートを割る勢いで潰されたはずの男はニヤッと笑いながら余裕そうだ。

パシャンッ、と満象は消える。

「出したり消したり忙しない！ 男ならハッキリしろい！！」

Aは両腕に力を込め、一台の車を持ち上げた。
これを投げても男にダメージはない。だが、それでも馬力アピールには十分過ぎる。

「そういうのは俺の担当じゃない」

歯を食いしばり、上半身を大きく泳がせた。

投げ飛ばされた車はまっすぐ男に吸い込まれていく。しかし、それは男にいとも簡単に受け流されてしまった。

「恵！」
「あぁ！」

Aと恵は同時に男に襲いかかった。

二人の全力は流されてしまうが、Aの視界に蝦蟇が飛び込んできた。
男を殴りながら恵はいつの間にか蝦蟇を出していたらしい。

二人の攻撃が男にぶち当たった瞬間、ごふっ、と男の口から血が溢れた。

蝦蟇の舌は攻撃力が低い。
高い攻撃に術式を備えていた男は、突然食らった弱い攻撃に耐えられていなかった。

それが合図となった。

蝦蟇の直後に全力で叩く。

一発、二発、三発……。
四発目を繰り出そうとしたAと恵は男の反撃に後ろへ飛んだ。

「この程度で調子に乗るなよ、ガキ共ォ！！」

今、この、瞬間。

右手を握りしめ、Aは男の短刀をかわしてその頬に拳を振った。
凄まじい勢いで放たれた拳はそのままぶつかることなく、男の眼前で止まる。

刹那、強烈なパンチが男の体を簡単に吹き飛ばした。

「お前、意外と器用だよな」

ガードレールにぶつかり、気を失った男を見ながら恵がぽつっと言った。

「そう？ ありがとう」

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