呪いの王を宿した少女 ｰ５ｰ〈呪術廻戦／成り代わり〉

一夜のはじまり ページ27

「五条先生一人にやらせるぅ！？」

20：39
青山霊園。

Aは初めて見る二人の前で目をひん剥いた。

「理屈はわかるけどさ、あたしたちにもできることがあるでしょ！ バックアップとか！」
「うん。だからそれをしに今から渋谷へ行くんだよ」
「あっ、そーなの！？」

Aの言葉に穏やかに返事をしたのは一級呪術師の冥冥。

「姉様にバックアップをさせるなんて。五条悟……贅沢な男です」

そんな冥冥のそばでふん、と鼻を鳴らす少年は憂憂。
冥冥の弟と言っていたが、詳しいことは知らない。なんとなく聞いてはいけないような気がした。

「彼をその辺の男と同レベルで考えてはいけないよ」
「姉様だってその辺の女とは違いますっ！」
「あぁ憂憂……お前は本当、愛い奴」

油断していればすぐこうなる。

すん、と無表情になったAはそのやりとりが終わるまで黙っておくことにした。

「また思ってもないことを。姉様が愛でているのは家族ではなく、家族という雇用関係でしょう？」
「ふふ、よくわかってるじゃないか。そういうところ好きだよ」
「まっ！」

ほら、なんか普通の姉弟じゃしないであろう会話が聞こえてきたし。

そのとき、冥冥のスマホが音を立てた。

「はい冥冥」

すぐさま電話に出た冥冥は向こうの電話相手の声に相槌を打った。

「虎杖さん、行き先変更だ」

Aは慌てて遠くに飛ばしていた意識を引っ張り戻して瞬きをした。
行き先が渋谷駅からどこへ変更になったのだろうか。

「明治神宮駅前に渋谷と同様の帳が降りた。私たちはそちらに向かう」

明治神宮駅前。渋谷駅の一つ前の駅だ。

Aは表情を引き締めて冥冥を見た。

「走るよ。ついておいで」
「押忍！」

そして、始まる。

Aの長い長い一夜が、幕を開けた。

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