飛べない鳥は空を描くｰ３ｰ〈ヒロアカ〉 (ページ6)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:37,523 hit

無垢な少女ページ6

「Aが、傷つく……」
「そうさ。彼女の心は父親を殺したあの日で止まってしまっている。なにも知らない、無垢な少女のままなんだ」

それでいい。それがいい。
そうでなければならない。

「もし彼女の中の時間が動き出してしまったら……Aは死んでしまうだろう」

弔は大きく目を見開く。

Aが死ぬ？人を殺した自分を責めて、後悔して、死んでしまうなんて。そんなこと。

「絶対に嫌だ」
「そうだろう？だからこうするしかないんだ」

弔は息を吐き出した。

Aが傷つくことだけは嫌だった。
Aを守ると誓ったのだ。

「わかった。先生。あんたの言うことに従おう」

先生がニヤリと笑った気がした。

「よろしく頼むよ、弔、黒霧」

ジジ、とノイズ音がし、先生の声が聞こえなくなった。

「ただいまー！」

妙に静まり返った空気を切り裂いたのはAの明るい声だった。
弔が顔を上げると、買い物袋をさげたAが笑顔でドアを開けていた。

「おかえりなさい、小鳥遊A」
「ただいま、黒さん！ねぇ弔！あのね、美味しそうなお菓子があったから買ってきちゃった！夜ご飯のあとにいっしょに食べよ！」

底抜けに明るい笑顔。
まるで幼い少女のように純真な笑顔。
その柔らかく、白い手は血に染まっているというのに、それを全く感じさせない笑顔。

「あぁ」

その笑顔に、弔は微笑んだ。