飛べない鳥は空を描くｰ３ｰ〈ヒロアカ〉 (ページ32)

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オーバーホールページ32

生ぬるい風が一つしかない入り口の隙間から吹き込む。
肌をじっとりと撫でるその不快さにわたしは思わず眉をひそめた。

トゥワイスさんが連れて来たある男。

荼毘さん以外の全員が集合した倉庫の中で佇むその男の名はオーバーホール。

「話してみたら意外と良い奴でよ！死柄木と話をさせろってよ！感じ悪いよな！！」
「……とんだ大物連れてきたな、トゥワイス」

わたしの隣にいた弔は立ち上がり、月明かりの差し込む場所まで姿を現した。

「大物とは、皮肉が効いてるな、ヴィラン連合」

その男の姿はわたしも見たことがあった。
いわゆる裏の世界の人間。死穢八斎會若頭。口につけた大きなペストマスクがトレードマークだ。

「私たちとなにが違う人でしょう？」

ヒミコちゃんは首を傾げて無造作に積まれた荷物の上に座るコンプレスさんを見上げた。

「よーし、中卒のトガちゃんにおじさんが教えてあげよう」

ちなみにわたしも違いをよく理解していないのでヒミコちゃんの隣に移動して揃ってコンプレスさんを見た。

「昔は裏社会を取り仕切る怖ーい団体がたくさんあったんだ。ヒーローが隆盛してからは摘発、解体が進んでオールマイトの登場で姿を消した」

キュッと自然と眉が上がる。

「シッポ掴まれなかった生き残りはヴィラン予備軍って扱いで監視されながら細々生きてんのさ。はっきり言って時代遅れの天然記念物」
「まぁ、間違っちゃいない」

時代遅れなんて言われて怒り狂うかと思ったけど意外と冷静だ。キレない若者。好感度アップ！

「それでその細々ライフの極道くんがなぜここに？あなたもオールマイトが引退しちゃってハイになったタイプ？」

大きな磁石を抱きしめながらマグ姉さんが口を開く。

ちなみにわたしはまだマグ姉さんの個性を見たことがない。いつか見せてあげるってウィンクされたけどいつかな。楽しみ。

「いや、オールマイトよりもオール・フォー・ワンの消失が大きい」

オーバーホールの言葉にわたしはコンプレスさんから視線を移す。
それは弔も同じだった。

「裏社会の全てを支配していたという闇の帝王。俺の世代じゃ都市伝説扱いだった。だが老人たちは確信を持って畏れてた。死亡説が噂されても尚な」

なにを言うつもりだ、この男は。

先生の悪口を万が一でも口にしたらその瞬間殺してやる。

「それが今回実体を現し、監獄ヘとぶち込まれた。つまり今は日向も日陰も支配者がいない。──だれが支配者になるか」

わたしは立ち上がった。