飛べない鳥は空を描くｰ３ｰ〈ヒロアカ〉 (ページ4)

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あの子のことページ4

「黒霧」

バーに声が響いた。
弔と世間話をいくつかしていた黒霧は驚いたように動きを止める。

「……先生、なんの用だ」

先に声を出したのは弔だった。

「Aは近くにいるかい？」

スピーカーから聞こえるのは先生の声。
姿は見えないか、わざとらしくキョロキョロとしているのは想像できる。

「今買い出しに行ってもらっています。しばらく帰ってきませんよ」

黒霧が答えると、先生は安心したように「それはよかった」と言った。
その言葉に弔は顔をしかめる。

「実は弔、黒霧、二人に話しておきたいことがあってね。……Aのことだよ」
「…………Aのこと？」

低い声が弔からもれた。

くつくつと先生が喉の奥で笑う。

「黒霧、あの子が今朝夢のことを話していただろう？」
「えぇ。嫌な夢を見たと言っていました」

弔はその夢の話を聞いていなかったため、黒霧が軽く説明する。納得の色が弔の顔に浮かんだ。

「恐らく彼女は今悩んでいるんだよ。人を殺すことが悪いことだと気づいてしまったんだ」

はぁ、と先生はため息をつく。

「十五歳のときヒーローからヴィランと決めつけられ、二週間前、雄英でヒーローを目指す人間に触れた」

そのせいで彼女は気づいてしまったのだ。
四歳のときから先生に育てられ、Aは人の倫理観というものを教えられてこなかった。

「罪悪感というものは知らないほうがいい。だが彼女の中にそれが……芽生えてしまったんだろうね。あぁ、こんなことなら外に出さなければよかった……」

白々しく嘆く先生に弔と黒霧は黙る。

「だからこそ夢を見たんだ。人を殺してしまった自分を人を殺す前の自分が責めてくるようになったんだ。可哀想に」
「それで……どうしてそのことを私たちに？」

口を挟んだ黒霧。弔もそれに同意するように頷いた。
イマイチ先生がなにを言いたいのかがピンと来ない。

「あの子は一歩間違えればヒーロー側に行ってしまいかねない。罪悪感に押しつぶされ、僕たちに背を向けかねない。それだけは阻止しなければ」