飛べない鳥は空を描くｰ３ｰ〈ヒロアカ〉 (ページ29)

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わたしを満たしてページ29

わたしの怒りに弔はお父さんをつけながらゆっくりと首を横に振った。

「手は、出すな」

今にも襲いかかりそうだったわたしやヒミコちゃんは動きを止めて弔を見やる。

「コイツは、大切なコマだ」

大切な、コマ。
人質。
こちらに加担しなくてもヒーローとの取引に使える。

わたしは全身の力を抜いた。

殺すべきだと、殺したいとわたしの心は叫んでいた。
でも、弔がそういうなら、わたしはなにも言わないよ。

「できれば少し耳を傾けてほしかったな。君とは……分かり合えると思っていた」
「ねぇわ」

弔はお父さんの下から赤い目を覗かせて、静かに息を吐いた。

「仕方がない。ヒーローたちも調査を進めていると言っていた。悠長に説得していられない」

ちらりと弔が壁際のモニターを振り返る。
いつの間にかサウンドオンリーと表示されていたモニター。かすかに走るノイズ。

もしかしなくても、先生がそこにいるのかな？

「先生。力を貸せ」

画面から、低い笑い声が聞こえた。

「良い、判断だよ。死柄木弔」

やっぱり。

「先生、いるなら言ってよ。ちょっとびっくりしちゃった」
「ふふ。面白いから少し見せてもらっていたよ」
「先生ぇ？テメェがボスじゃねぇのかよ……！白けんなァ？」

新たな敵の出現に、爆豪は強がりつつも一歩下がった。
口では強気なことを言っているが、どうせ内心は焦っているのだろう。

「A、コイツの動きを止めろ。その間にコンプレス、また圧縮させとけ。ここまで人の話を聞かねーとは。逆に感心するぜ」
「ん、わかった」
「ラジャ」

わたしは改めて爆豪と向き合う。

彼の目の奥に、たしかな恐怖があるのが見えた。
思わず、一瞬思考が止まる。

「A？」

きになる

「どうしました、小鳥遊A」

気になる

ふつっ、と心の奥でなにかが湧いた。

「ねぇ、爆豪勝己くん」

息が荒くなる。
一度沸き起こった興味をなかったことにする術をわたしは知らない。

手を伸ばし、彼の頬を掴んだ。

ヒュッ、と爆豪の喉の奥から細い息が漏れる。
わたしの声を聞いたんだ。もう、逃げられない。

「あなたの最悪の記憶が、知りたいの」

歪んだわたしの顔が彼の瞳に映っていた。

知れば知るほど、わたしは満たされるんだから。

「どーもぉ、ピザーラ神野店ですー」

そのとき、邪魔が入った。