遺言 ページ6
花屋で可愛らしい花を買う。
一応向かうことを連絡し、Aは青になった信号を渡った。
「部活行けって何度も言ってるだろうが」
「部活は五時前には終わるの」
「花なんていちいち買ってくんじゃねぇ。貯金しろ、貯金」
「じいちゃんにじゃないよ。看護師さんに」
「尚更だ馬鹿野郎」
「へーへー」
窓際の花瓶に水を注ぎ、買ってきた花を差す。
ここは杉沢病院。
この病院にはAの祖父が入院している。両親のいないAにとってはほぼ親代わりのような人だ。
いつも通りの小言を聞き流し、Aは病院の窓から外を見下ろした。
子どもたちが楽しそうに笑っている。
それを見ながら大人が微笑んでいる。
平和ないつもの日。
「A、最期に言っておくことがある。お前の両親のことだが……」
「いいよ。興味ないし」
今更聞かされてもなんの感情も湧かない。
顔も名前も知らない親など親と呼べるのだろうか。
「お前の！ 両親の！ ことだが！！」
「だから興味ないって。……死ぬ前にカッコつけようとすんのやめてくんない？」
はぁ、とため息をついてAは窓から目を逸らした。
「男はカッコつけて死にてぇんだよ！ 空気読め！！」
カッ！！ と怒鳴る祖父にAは呆れて口を噤む。
Aは男ではないからその心理がよくわからない。
祖父はそんなAに「ケッ」と不満そうに舌を打つと、ごろん、と寝返りを打った。
「……A」
やがてさっきとは比べ物にならないくらいの小さな声で祖父はAの名を呼んだ。
かわいいなぁ、と花に触れていたAは「んー？」と気のない返事をする。
「お前は強いから、人を助けろ」
祖父の声音にAは思わずそちらを見た。
だが背中を向けていて顔は見えない。
「手の届く範囲でいい。救える奴は救っとけ。迷っても感謝されなくても、とにかく助けてやれ」
わずかに開いた隙間から春の終わりを告げる柔らかな風が吹き込む。
Aの桜色の髪をさらった。
「お前は大勢に囲まれて死ね。俺みたいには、なるなよ」
静寂が訪れる。
「じいちゃん？」
.
［はい、どうされました？ ……虎杖さん？］
Aはナースコールの受話器を握りしめ、上を向いた。
「じいちゃん、死にました」
こうしないと、涙が零れてしまいそうだったから。
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森 - なんだこれぇ…おもろいやん…惚れてまう… (2022年2月1日 23時) (
レス) id: d826e852a9 (このIDを非表示/違反報告)
柊(プロフ) - テイルさん» テイルさん、コメントありがとうございます！ご指摘の通り、悠仁の漢字を間違えていました汗 急いで訂正致しました。おもしろいと言っていただき嬉しいです！これからも更新頑張ります！ (2020年11月30日 0時) (レス) id: 4990928c1f (このIDを非表示/違反報告)
テイル - 面白いです!!私はこう言うの読みたかった!! 頑張って下さい!! ところでどうでもいいんですけど ユウジって悠仁じゃありませんか? 悠二じゃないような…? (2020年11月30日 0時) (レス) id: 76f38bdf79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柊 | 作成日時：2020年11月28日 19時
