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私がこの人を好きになったのは、ここの掃除に来て一週間ほど経った日のことだった。
慣れ始めた新しい職場で少し調子に乗っていた私は、沢山の水が入ったバケツを両手に持っていた。大して力もないくせに何してんの、と後悔したのは遅くない。運び始めて少し歩いた辺りだった。
重い、これ。もうダメだなあ。と、嫌気がさしてだらりと下向いて歩いていたのが駄目だったようで。前から来ている人に気が付かずぶつかってしまった。
ばしゃ、と水がこぼれる。自分にはそう多く掛かっていない。
ということは、確認するまでもなくわかった。相手に沢山掛かったのだ。
まずい、どうしよう、
「ご、ごめ、ごめんなさい!」
「嗚呼、気にしないで。こちらこそ不注意だったよ。」
「でも貴方、すごく濡れて、」
「いや、いいんだ。丁度川からの帰りで濡れていたからね。」
と、私が顔を上げた時微笑んだその人。うわ、イケメンだ。と言うのが第一印象だった。
ひとつ疑問に思ったのが、川からの帰りってなに。ということだ。
「あの、川って、?」
単純に気になって聞いた。するとまた笑みを深めたその人はゆっくりと、強調するように敢えてはっきりと言った。
「入水さ。失敗してしまったけれどね。」
少し自嘲の混じった声を零したその人が、太宰さんだった。
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こめこ(プロフ) - どんぐりさん» お読み頂けて嬉しいです、コメントありがとうございます!どんぐりさんの作品大好きなので、5割増くらいで嬉しいです (2019年3月17日 8時) (レス) id: 0632503f0e (このIDを非表示/違反報告)
どんぐり(プロフ) - コメント失礼します。二人の駆け引きと遠回りな恋模様が見ていて面白かったです。素敵な作品をありがとうございました。 (2019年3月17日 2時) (レス) id: af82a43e6e (このIDを非表示/違反報告)
こめこ(プロフ) - カコさん» カコさん、いつもありがとうございます!!そう言っていただけて嬉しいです、素直じゃない感じをコンセプトにしていたので!フロチャも楽しんで頂ければな、と思います! (2018年7月10日 21時) (レス) id: 349231008c (このIDを非表示/違反報告)
カコ - めっちゃ良かった・・・どストレートじゃない、回りくどい感じが凄く好きです。骸砦の方も近いうちに読ませていただくつもりです。 (2018年7月10日 20時) (レス) id: 87181eb08c (このIDを非表示/違反報告)
こめこ(プロフ) - 雪兎さん» ありがとうございます!おまけ、できるだけ早く書きますね。次はもっと面白いものが書けるよう頑張ります! (2018年6月10日 11時) (レス) id: 349231008c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめこ | 作成日時:2018年5月4日 21時