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私は大きく目を見開いた。
…なんで、?
白紙だった。その紙は、何も書かれていない、ただ折っただけの白紙。
「…あの、太宰さん、?」
「ごめんね、やっぱり直接伝えたくて。」
「それって、どういう、」
いみですか、
その言葉の前に彼が言葉を被せる。
「私の想い人、
色んなことに理解が追いつかず、混乱している私に彼はこう言った。
「ほんとはね、名前を書いた紙を入れていたのだよ?ほら、これ。」
と、ズボンの右ポケットから同寸の紙を取り出して私に手渡す。
それを開くと、確かに私の名前が綴られていた。
じゃあどうして、の疑問は投げる前に拾われて、答えられる。
「今日みたいな日なら、直接伝えた方がいいかと思って。できたなら、好きな人を聞かれたあの日に言えばよかったのだけど、」
どうも自信がなくて、踏み切れなかったのだよ。
彼の言葉全てが私を揺さぶる。
嬉しさなのかなんなのか、わからないけどじわりと、涙が滲んだ。
半泣きのその顔で振り返って、太宰さん、と呼ぶと、彼は焦った顔になった。
「泣くほど嫌だったかい?」
と困ったような笑みに切り替え、ごめんね、と。
「ちが、います、泣くほど嬉しいです。」
両目から溢れた涙をそのままに、私は彼の手から白紙の紙を奪い取った。
そして、近くにあったペンをとって、そこに私の好きな人の名前を書く。
«太宰 治»
見られないように丁寧に、私渾身のきれいな字で綴る。
箱に入れ、随分前から外れっぱなしだった南京錠をかけて、彼に渡した。
もちろんナンバーはそのままだ。
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こめこ(プロフ) - どんぐりさん» お読み頂けて嬉しいです、コメントありがとうございます!どんぐりさんの作品大好きなので、5割増くらいで嬉しいです (2019年3月17日 8時) (レス) id: 0632503f0e (このIDを非表示/違反報告)
どんぐり(プロフ) - コメント失礼します。二人の駆け引きと遠回りな恋模様が見ていて面白かったです。素敵な作品をありがとうございました。 (2019年3月17日 2時) (レス) id: af82a43e6e (このIDを非表示/違反報告)
こめこ(プロフ) - カコさん» カコさん、いつもありがとうございます!!そう言っていただけて嬉しいです、素直じゃない感じをコンセプトにしていたので!フロチャも楽しんで頂ければな、と思います! (2018年7月10日 21時) (レス) id: 349231008c (このIDを非表示/違反報告)
カコ - めっちゃ良かった・・・どストレートじゃない、回りくどい感じが凄く好きです。骸砦の方も近いうちに読ませていただくつもりです。 (2018年7月10日 20時) (レス) id: 87181eb08c (このIDを非表示/違反報告)
こめこ(プロフ) - 雪兎さん» ありがとうございます!おまけ、できるだけ早く書きますね。次はもっと面白いものが書けるよう頑張ります! (2018年6月10日 11時) (レス) id: 349231008c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめこ | 作成日時:2018年5月4日 21時