【文スト】パスワード【太宰治】

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季節の変わり目というのは体調を崩しやすいそうだ。最近、同じ職場の人がぽつぽつと体調不良で休んでいる。

そんな中、私の無遅刻無欠席は目立った。皆勤賞だね、と上司に言われたのは記憶に新しかった。

休むわけない。仕事に行けば、彼に会えるのだから。



ふと思い出した最近の出来事、ぼんやりと考えながら横断歩道を渡った。その先にあるレンガ造りの建物の階段に足を踏み入れて登る。

早く会いたい、少し気持ちが急いており、早足になった。

まあ、あの人いつも遅刻してくるからまだいないだろうけど。

頭では分かっていても、今日は早いかも、なんて期待を毎日抱きながらこの階段を登る。エレベーターもあるけど使用しなかった。特に理由はないけれど、私はここを歩く時間が一番好きだからだ。


オフィスのドアをノックして、迷惑にならない勢いで開ける。


「おはようございます！三嶋掃除サービスのAです！」


私の仕事は、この探偵社の掃除。いつもここにはお世話になっている。朝から昼まで、短い時間だけど、その場所にいる時間は心地いい。

皆が挨拶を返してくれる中、作業着に着替えるため移動しようとした時。

「おはよう。」

「お、おはようございます！」


今日も期待したその姿だ。ゆっくりと声の方を振り返り、淡い緊張を和らげるよう頬を緩める。そんな私の努力を嘲笑うようにこう告げる彼はきっとドSだ。

「今日は君のために早く来てみたんだ。」

にこり、と見惚れるような笑顔で蓬髪を揺らし、首を傾げる所。格好いいと思わない人はいないだう。そんな人に、名誉なことにも待っていて貰えたのだ。


嬉しい。



私の好きな人はこの人だ。

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