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目が覚めたら夜は明けていた。赤と青と黄色、原色と呼ばれる三つの色がわかりやすく喧嘩していて、今が日の登る途中なのだとわかった。
ふと隣を見るとまだ目を閉じたままの太宰さんがいて、起こさないようにそっと布団から抜ける。床に落ちていたタオルを肩にかけて風呂場に向かった。
あまり大きな音を立てないよう気をつけながらドアを開閉し、浴室に入る。湯船に浸かることはせず、さっとシャワーのみ浴びた。
ドライアーの音はうるさいと判断したから、彼が起きてから乾かそう。ともう一度ベッドルームに戻る。
まだ布団に入っているその人に少し近づくと、規則的な寝息が聞こえてきた。今まで、朝起きて隣に眠っていた人の中で一番綺麗なその人はいびきはもちろん、寝返りひとつうった様子は無かった。寝方まで綺麗なの、と少し感動した。
この人を見ていると、綺麗だ、という単語しか出てこなくて困る。
ちょっとした出来心で、そのきめ細かい白い肌に触れた。誰もが羨むようなすべすべの肌だ、何故か無性に触れたくなって頬に手を添えた。
そしてそのまま接吻を、私から落とした。
すぐに離れるつもりだったけど、何故か惜しくて数秒間口付けをしていた。
私が彼から離れ、顔を見た時には伏せられていた長い睫毛はぱっちり上がっていて、彼の起床を教えてくれる。
「おはよう、ございます」
「嗚呼、おはよう。」
キスについて触れる様子は無く、珈琲でも。と私が髪を乾かし終わる頃に持ってきてくれた。
少し濃い、香ばしい香りのするティーカップに顔を寄せて、すん、と匂いを嗅いだ。
いい匂い。珈琲は好き。ネットカフェのドリンクバーみたいな安っぽい味じゃない。ちゃんとドリップしたんだろうなっていう、独特の美味しさみたいなものがあって、寝不足から来る頭痛や不機嫌さも喉の奥に流されてしまった。
いつもはシャワーで冴える頭が、珈琲で冴えた。
…このあとどうしよう、送ってもらえるかな、
意図的ではないが、意識が逸れていた現実的な問題が頭にぽつりと浮かんだ。
それを掻き消すように、もう一度カップの上隅に口をつけ、一度で飲みきるにはあまりに熱いそれを、ごくごくと喉を鳴らして飲み干した。
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作者名:こめこ | 作成日時:2018年4月28日 22時