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少し前の話。
探偵社社員、織田作之助は丁度有給で、行きつけのバーで小説を書いていた。
ひっそりとした、寂れたバー。バーの物は、全てが親密で、密談をするのには最適だろう。
ドアが静かに音を立てて開いた。全てを変える音だった。
俺は振り向いた。
入ってきた男は長い睫毛越しに見えるか見えぬかのギリギリで微笑んだ。
「やァ、織田作。久しぶり。まだ一杯やるには早いかな?」
静かな声を発して、その男は這入ってきた。
「久しぶり、と云ったな」
男はまだ、青年、と云っても通りそうな男だ。
「あァ。云ったよ」
俺は少し考え、言葉を発した。
「その、織田作、と云うのは俺の呼び名か?」
男が少し困った顔で言った。
「その名で呼ばれたことは無い?」
其の様に呼ばれた覚えはない。もっとも、そんな変なところで区切られたら忘れることができないだろう。
「無いな」
男は宙を見上げている。
「そうかい」
不意に、俺はこんな想像をした。
いきなり、その男がいきなり泣き出すと思ったのだ。少年のように。
だが、そんな想像は有り得ない。
男はバーテンダーに小さく会釈をし、「ギムレット。バターは抜きで」といった。
俺も飲んで居た珈琲が無くなっている。俺もバーテンダーにおかわりのサインを出した。
目の前にほぼ同時に飲み物が置かれる。
私の名前は太宰だ、と男が自己紹介をした。
その後、俺等は何も話さなかった。
グラスの中で氷が回る音が俺にしつこく話しかけていた。
そして、ざっと十五分ほど経ったところで、太宰が俺の方を向いて云った。
「織田作、面白い話があるのだけれども、聞くかい?」太宰は急に隠し事をしている少年の様に笑った。
こうしてみると、太宰は幼く見えた。
不思議な男だ。
「僕が、マフィアの首領だとすれば___君は如何するかい?」
織田作の気配が変わった。
懐からそれを取り出す。
「それは何だい?」
太宰の目は真剣そのものだった。しっかり、真っ直ぐと俺に向けられていた。そして、震えていた。
それは、拳銃だった。
銃口が太宰を狙っている。
「それも何も拳銃だ」
俺はなるべく平坦な声で言った。
太宰はそれが気に入らないようだ。何かを堪える様にして俺を見つめる。
「それを退けてくれ」
太宰が懇願するように俺に云う。
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珀秋そら(プロフ) - 感想正座待機でお待ちしておりますべ (2022年8月9日 18時) (レス) id: ae0531e6bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空白時 | 作成日時:2021年7月9日 13時