記憶、追憶 ページ38
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随分長い時間を経た気がした。
他人と自分の区別も付かなかった。自己が存在しなかった。ゆったりとした波に呑まれている様で、その感覚は胎内のそれに似ていた。
そこから引き摺り出される感覚も。
『君たちは人間ではない。異能そのものだ』
太宰の声が聞こえた。
ぼんやりとした視界がだんだん明瞭になってゆく。
ここはポートマフィア執務室____だろう。
“偽”敦の記憶を横から見ているようだ。
『私の異能は反異能だ。故に、私は君たちには触れない』
視界がまたぼやけてくる。
『止めろッ!やめて呉れェ!』
知らない男の悲鳴が聞こえてくる。近くで空薬莢が落ちてカランカランと戦争音楽を作り出す、悲鳴を上げた男と目が合った。男はこちらを見ると化け物と出会った様な顔をした。
『ポートマフィアの白い死神…』
男が憎むように敦を見た。男の右腕は欠損していた。敦はハッとして顎に手をやる。ねとり、と嫌な感触がする。手が血糊に濡れていた。
記憶の中で敦は人を殺した。何人も。
目の前の男が冷たくなってゆく。
急に周りが霞んできて、体が冷たくなっていった。
……………敦……………?
鏡花の声がした。
ババババババ……とヘリコプターの音がした。
瞼に映る、二人の影。
ああ。もうどうだっていいや。安吾さんに怒られてしまうけど。
ヘリコプター?
「いつまで寝ぼけているつもりですか、中島君」
安吾さんの声だ。そうだ。僕は___
特務課のエージェントだ。
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珀秋そら(プロフ) - 感想正座待機でお待ちしておりますべ (2022年8月9日 18時) (レス) id: ae0531e6bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空白時 | 作成日時:2021年7月9日 13時