君を、喰べたい【及川徹】

30日目 ページ19

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ー30日目 ー







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暗幕を開けた放課後の体育館には沈みかけた夕陽が差し込み
秋だと言うのに練習後の熱気が立ち込め、蒸し暑い






「…及川さん、お疲れ様。」







部活が終わった体育館には、ボールを持った及川さんがただ一人コートに立っていた





「あー！A！来てくれたんだねー。
ちょっと待ってね？1本だけラスト打たせて！」





そう言って微笑んだ彼は
いつものようにしなやかな曲線を描くように跳ね上がり、ネット越しへと勢い良くボールを弾いた









サーブを打つ彼の姿は
恐らく誰もが見惚れる程に美しい
血の滲むような努力をして来た彼だけが手に入れた魔球はバレーをやらない私でも羨ましいと思うほどだった






「…ナイッサー。」









「ありがとう。A。」







文化祭のあと、彼は部活が忙しくなり
私は塾が忙しくなった関係で、今日は久しぶりに言葉を交わした





お互い、あれから連絡は取り合っていたもののあの日の事には触れようとはしない
私も掘り返す気は無いし、彼もきっと思い出して欲しく無いはずなのだと勝手に解釈していた







「一緒に帰るの久しぶりだねー。
ねぇ、A。及川さんと会えなくて寂しかった？」








「え…いや、別に毎日隣のクラスにいるじゃないですか。
…それに及川さん目立つから見ようとしなくても視界に入るって言うか。」








本当は、寂しかったけど
照れた気持ちを隠したくて可愛げの無い言葉が口から飛び出し
本心を悟られたくないが為に目線を逸らすと、彼は全部見透かした様な表情でニコッと笑う






「ほーんと、照れ屋だね。
かわいーなぁー！！
ほらっ、もっとこっちおいで？」








彼は繋いでいた手に力を込めると、そのまま自分の方へと引き寄せた

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