▽ ページ22
強く繋がれた手は絶対に離れない。
別に嫌ではないけど、これだとあの日を思い出してしまうから。
せめて私がお母さんの手を取って走っていれば、私とお母さんが逆だったら……。
あの日のフラッシュバックは、日常の何気ない一コマから不意に訪れる。
それがどれだけ楽しくて嬉しい場面であっても。
「先輩はどこ行きたいんスか？」
紙パックを片手に、影山くん。
コードレス掃除機の吸引力と同等とも言えるほど、ジュースをすすっていた。
彼の声でまた、我に返った。
「えっと、本、買いたいかな」
「うっス」
そう言って影山くん自らがリードしていった。
でもどうやら彼は方向音痴みたいで、結局私が案内した。
影山くんは雑誌が買いたいらしく、スポーツ系雑誌の方へと駆けていった。
バレー、かな？
私は参考書が並べられている棚に行き、苦手分野の理系本を手にした。
一応来年には受験も控えてるし、勉強はしておかないといけない。
本を持ってレジに並んだとき、丁度影山くんと一緒になった。
「あ、俺払います」
「え、あ……」
そう言い、私が持っていた参考書を拾い上げた。
「混んでるんで向こうで待っててください」
「あぁ、うん」
確かにレジは混んでいて、暑苦しい。
「私が出すから」と言っても効かないと思うし、ここは甘えて任せることにした。
食事後に「払います」ならドラマでみたことあるけど、本奢ってくれるのは初耳かも。
やっぱり変人なんだ、と関心(?)した。
そんなことを考えながら彼を待っているとき、どこからか嫌な声がした。
いつもあの部屋で聞いている声。
「んでさ、Aが」
「ちょ待って。いるじゃん、やめよ」
「偶然すぎてウケる」
……ほんと最悪。何で休日までこの人達と会わなきゃいけないの。
気づけば隣に、大嫌いな雨夏グループがいた。
「え、瀬尾さん一人なの？」
広尾ではない女子が話しかけてきた。
「……二人。今レジにいると思う」
「へぇ。他校の友達？ いいなー」
勝手に訳の分からない解釈をして、話を進めていくこの人達。
遠回しに悪口を言っていること、私にはちゃんと分かってる。
早くどこか行ってほしい、そう思った時。
「さーせん、遅くなりました」
私と彼女達の壁になるように、するりと入ってきたのは会計を済ませた影山くん。
「……友達、ですか？」
影山くんが何を思ったのかは分からないけど、声がいつもと違った。
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ハルジオン(プロフ) - 太宰亜里沙さん» コメントありがとうごさいます。楽しんでいただけてなによりです！ (2020年7月14日 17時) (
レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
太宰亜里沙(プロフ) - コメント失礼します！凄く面白くて一気読みしちゃいました！静かな夏の描写や素敵な影山をみれてとても読んでいて楽しかったです！ (2020年7月14日 12時) (レス) id: 9865e50aa1 (このIDを非表示/違反報告)
ハルジオン(プロフ) - はるはるさん» コメントありがとうございます。夏の描写はかなり気を使っていたので、そのように言っていただけて光栄です！ (2020年7月11日 13時) (レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
はるはる(プロフ) - 影山くんと主人公の不思議な関係、対して、鮮明な夏の描写。素敵な文章に幾度も胸をきゅっと締め付けられるようでした。最後の文章で、一気に世界が色づくような錯覚を覚え、思わず泣きたくなるような気持ちになりました…！ (2020年7月11日 2時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ハルジオン | 作成日時：2020年6月21日 13時
