第五章 久しぶりの感情 ページ17
「ただいま」
いつものように家に向かい、いつものように扉を開ける。
珍しく靴が並べられている玄関は、やけに綺麗。
……父の靴がある。今日休みだったっけ。
リビングに行くとソファに座り、黙々と作業をしている父の姿があった。
作業着じゃないからやっぱり仕事は休みなのか。
「おかえり」が返ってこないまま、私は冷蔵庫に手をかける。
よく飲んでいる牛乳を注ぎ、父のいるソファに腰掛けた。
「久しぶりに倉庫の掃除したら出てきたんだよ。俺が高校ん時に使ってたヤツ」
そう言いながら濡れタオルで磨いているのは、白いボール。
「高校ん時バレーやっててな。懐かしいなー」
私の顔には見向きもせず、ただひたすらにボールを眺めている。
私が見ている青と黄や赤と緑と白のバレーボールじゃなくて、白一色のボール。
所々黒くなっていたり黄ばんでいたりと、かなり年忌が入っている。
このボールひとつに沢山の思い出が詰まってるんだろうな、と考えると涙脆い。
残り半分の牛乳を一気に飲み干し、私は自分の部屋へと向かった。
母の写真を眺めながら、記憶を呼び戻す。
『部活に一生懸命なお父さんが格好良かったんだよ』
そんな声をいつか聞いた覚えがある。
多分、あのボールに詰まった思い出のひとつなんだと思う。
確かにお父さん、嬉しそうだったもんな。
私も、あんな風に高校生活を遅れていたらいいなって思った。
152人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ハルジオン(プロフ) - 太宰亜里沙さん» コメントありがとうごさいます。楽しんでいただけてなによりです! (2020年7月14日 17時) (レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
太宰亜里沙(プロフ) - コメント失礼します!凄く面白くて一気読みしちゃいました!静かな夏の描写や素敵な影山をみれてとても読んでいて楽しかったです! (2020年7月14日 12時) (レス) id: 9865e50aa1 (このIDを非表示/違反報告)
ハルジオン(プロフ) - はるはるさん» コメントありがとうございます。夏の描写はかなり気を使っていたので、そのように言っていただけて光栄です! (2020年7月11日 13時) (レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
はるはる(プロフ) - 影山くんと主人公の不思議な関係、対して、鮮明な夏の描写。素敵な文章に幾度も胸をきゅっと締め付けられるようでした。最後の文章で、一気に世界が色づくような錯覚を覚え、思わず泣きたくなるような気持ちになりました…! (2020年7月11日 2時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハルジオン | 作成日時:2020年6月21日 13時