５６話目 ページ18
葵視点
それに、"嗤ってたんだ"。
可笑しそうに、楽しそうに。
…………哀れむように。
口はいびつに歪んで、目は悦に浸るように
歪んでた。
まるで、心底それを楽しむように。
心底それを哀れむように。
それを見て分かったんだ。
嗚呼、彼の本質は"ソレ"なんだって。
彼の"ソレ"は……"アヤカシ"だった。
決して人とは交わることのできないモノ。
それが彼の"アヤカシ"としての本質。
怖かった。
でも、それと同じくらいに悲しかった。
彼は、私達に何も
見せてくれていなかったんだ。
彼の本心は……ずっとあの妖の下に
あったんだって……
影剣君は、勝負が終わると
あの妖の下へ駆け寄っていった。
あの妖が影剣君の頭を撫でる。
すると、影剣君は パッ と
花を咲かせるように笑った。
とても綺麗な花。
一点の穢れも、曇りもないような花。
何人たりもと触れることが赦されぬ花。
まるで……神の花。
けれど、その茎は赤黒く染まっているんだ。
近づこうとした者の、
手折ろうとした者の、
触れることの赦されなかった者達の血で。
そして、私は"赦されなかった"。
いや、違う。
正しくは"あの妖達"以外は赦されない。
だって、彼が本当に思っているのは
"あの妖"だから。
そして、"あの妖"が認めたモノのみを
彼は認める。
だから、彼は……
加「主？どうしたn__って！影剣！？」
考えていると加州に話しかけられた。
私の視線を辿ったのか声をあげた。
それに反応して他の皆も彼を見る。
それから、私に視線をやった。
「どうするの」って尋ねるように。
きっと、あの妖がそばに居るのも見えたから。
でも、私は答えない。
否、答えられないんだ。
だって、彼は、本当に幸せそうで……
影剣君を連れて帰りたい。
でも、本当にそれでいいのかが分からない。
そんな時
「お願い。アノ子を……」
何処からか声が聞こえた。
他の人に言ってる可能性もある。
でも、私に言ってるんだって思った。
「お願い。アノ子を、助けてあげて……」
そう言われて、何を迷う必要があるんだって
思った。
私の事を信じてなくても、薫さんは……
影剣君は泣いてたんだ。
薫さんの事を思って泣いていた。
なら、薫さんさんへの思いは本当だったはず。
連れて帰ろう
そう思って歩き出そうとした瞬間
彼がこっちに来た。
そして、私の横を通っていった。
彼は私達の事を見なかった。
でも
影「____」
彼は確かに何かを言った。
慌てて振り向いたけど
彼はもういなかった
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作者名：黒狼 | 作成日時：2017年12月28日 3時
