赤葦京治は考えない。

#36 ページ38

喉の奥が音を立てた。

言葉が出てこない。



「やだなぁ。赤葦くんがそんな顔しないでよ」


Aが困ったように笑うから、

俺は余計に苦しかった。




「お金は毎月送られてきてるから平気だよ」

「そういう問題じゃないだろ」



「赤葦くんは優しいね…。そういうとこ好きだよ」



トン。とAの頭が俺の肩に預けられる。


「馬鹿。そんなこと聞いてないよ」

「ふふっ」





Aは泣きそうに目を細めた。




「たまにね。一人で居る時間が怖いの」

「…うん。俺もあるよ、そういうこと」




Aがどうして無意味な嘘をついていたのかはわからない。


でももしかしたら、

嘘なんて全部意味を持っていなくて


自分を守る盾にすぎないのではないか。


そう思った。






俺は心の中で何度も繰り返した。



捨てろ。捨てろ。

捨てたものに敬意を持て。




そうじゃないと気が狂いそうになる。





「今話せるのはこれだけ」

「いいよ、ゆっくりで。話してくれてありがとう」




今話してくれたことが、

Aの1割にも満たないっていうのは理解してる。


Aの裏側はもっと厄介で、真っ黒だ。

俺がずっと目を背けてきた事実。






「赤葦くんも、私に言いたいことがあるならちゃんと話してね」




見透かしたような瞳で、俺を見る。

背筋がヒンヤリと冷たくなった。






あー。

俺もなんかバレてんのかなぁ…って。



そしたら、Aには敵わないな、って。


笑ってしまった。







「うん。きっとこれから、Aに話さなきゃいけないことがたくさんあると思う」



「……私は大丈夫だよ」


「そっか。Aは良い子だね」


「子ども扱いすんなー」





よく笑うAの笑顔は、いつも俺を安心させてくれる。



きっとどんなに苦しんでいても


その笑顔だけは嘘じゃないって。




そんな気がしたんだよ。






「眠いー……」

「A最近、ずっと眠いって言ってるね」

「猫アレルギーの薬のせいかなぁ」





Aは良い子だけど

すごく悪い子だよ。




やってはいけないことをたくさんしてる。

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