赤葦京治は考えない。

#34 ページ36

喉の奥が苦しい。


グッと唇を噛み締めて

俺は怒りを抑えた。



「…捨てて利益はありますか？」



嘘を捨てて。

Aを捨てて。

良いことなど一つもない。

Aを傷つけるだけだ。



「…赤葦、いい加減よく考えろ」


自分に利益のないことはしない。

そうやって生きてきた。

それが間違いだと思ったこともない。


なのにどうして。

木葉さんはそんなにも本気で俺を見るだよ。




「何かを手に入れたいのなら、他の何かを捨てろ。全部捨てて手に入れろ」


「…………」



今の俺が手に入れたいものなんて。

そんなの俺が口に出して言えることじゃない。



それに、捨てることによって生まれるのは

両者の罪悪感だけだ。



俺が黙り込んでもなお、木葉さんは続ける。



「捨てたら二度と拾うな。前だけ見て、自分が捨てたものに敬意を持て。捨てるのがゴミだけだと思ったら大間違いなんだよ」




その瞬間。


何故か泣きそうになった。



どうして終わりにしなきゃいけないんだろう。




本当はAのこと、知っていたはずなのに。

全部見ないフリして。

考えるのやめて。



結局。


Aも俺も苦しくて。

何も変わらなくて。




「……上手くいかなかったなぁ…っ」




だけど。

確かな幸せはあったんだよ。



Aといるだけで安心した。


俺の行動一つで

笑ったり、怒ったり、悲しんだりしてくれた。



なのに俺は、好きになれないなんてさ。




「……馬鹿みてぇ…っ。本当にクズだ」


「ちゃんと話してこいよ。Aちゃんは逃げたりしない。お前が思ってるより、すげぇ強くて弱い女の子だよ」









俺が欲しかったもの。


手に入れたければ、全部捨てなきゃいけない。





地獄のような当たり前だ。

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