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1回目は10年前。
私の8歳の誕生日を明日に控えていた日でした。
幼い頃の私はそれなりに明るくて悪戯好き。
体育が好きで、算数が嫌いで、
ケーキが好きで、にんじんが嫌いで、
優しい父と綺麗な母とまだ5歳だった幼い弟がいる……何処にでもいる普通の女の子でした。
その時私達一家は新居を探していて、母が特に新しい物件を探すことに張り切っていて、その日も物件見学の日でした。
そしてその日…午前中の学校の授業を終え、今日の誕生日を楽しみに待っていた私は、母達を驚かせようと今日見に行く予定だと言っていた物件に先回りしました。
物件の空かれた窓から部屋の中へと入り、2階の押し入れの中に隠れ、母達が来るのを待っていました。
そして2階へ上がる足音が聴こえ、私はワクワクしながら待っていました。
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…けれど、いつまで経っても母達の楽しそうな声が聞こえてこなかったんです。
いつも家族全員で行った時は、優しく丁寧に紹介してくれる不動産屋さんに遊んでくれとせがむ私と弟、それを諌める母と笑って見守る父で、騒がしかったのに。
不審に思った私は様子を見ようと、ほんの少しだけ襖を開け、その隙間から覗きました。
…そして、見てしまったんです。
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意識を失い、ボールを口に詰め込まれた母に油をかけ、
不動産屋さん…高瀬文人が、ライターで火をつけるところを。
『助けてください!火事で動けません!!助けてください!!』
高瀬は通りすがりの人に消防車を呼ぶよう叫んだ。
そして、物件の前にある八百屋の店長さんが消火器を掴んですっとんできて、火を消し止めて、救急車を呼んで……
警察は母の死を不慮の事故と、高瀬は巻き込まれたむしろ被害者だと片付けられた。
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自分は母が殺されるところを、ただ見ている事しか出来なかった。
黒焦げになった服が体にへばりついていて、それでもなお動かない母に駆け寄る事もできずに、立ち込めた髪や肌が焼ける匂いで催される吐き気は、今でも忘れられない。
声は出せなかった。出したら自分が殺されてしまうから。
高瀬がその場からいなくなるまで、私は押し入れから出られなかった。
高瀬が助けを求めて家から居なくなった隙に、私は入ってきた窓から逃げだした。
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蒼炎 - アンナチュラルも3年A組も好きなドラマだったので、続きが気になります!更新待ってます! (2020年1月12日 22時) (レス) id: 874e279780 (このIDを非表示/違反報告)
Yui(プロフ) - 続き気になります!更新待ってます! (2019年12月3日 4時) (レス) id: 7c69be82b3 (このIDを非表示/違反報告)
Yuri - いつも楽しく読ませていただいてます!更新、待ってます!! (2019年5月5日 16時) (レス) id: d785c31dd6 (このIDを非表示/違反報告)
中原三日月(プロフ) - 主人公が私の好みです!更新頑張ってください! (2019年4月24日 20時) (レス) id: f8510eae2e (このIDを非表示/違反報告)
かれーこ - このお話好きです!更新頑張ってください! (2019年3月24日 17時) (レス) id: 6209d012cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無音 | 作成日時:2019年3月24日 6時