その一杯に、心、揺れて (ページ33)

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「あの、彼は…」
『ああ、店長ですか？』
「店長…」

通りがかったアルバイトらしき店員さんに思わず声をかけると、返って来たのはそんな答えだった。

そっか、夢叶えたんだね。
さすが涼太だね。
でも…

『お知り合いですか？』
「あ、いえ、」

そう、彼はもう、他人だから。
もうとっくに遠い世界に行ってしまった人だから。

あの日おめでとうの一言が言えなかったこと、正直何度も後悔した。
でももう今更だ。
いくら後悔したって、その言葉はもう彼には届かない。
だから、こっそり心の中だけで、唱えさせて…

言葉に詰まった私を、店員さんは少し不思議そうに見つめている。
何だか泣きそうになるけれど、ダメだ、もう彼の邪魔をしちゃいけない。
私はここにいちゃいけない。

「…素敵なお店ですね」
『ありがとうございます』

絞り出した言葉に、ペコリと頭を下げて去っていく店員さん。

うん、これでいいんだ。
涼太が忙しくしているうちに、さっさと食べて帰ろう。
それで、今日のことは無かったことにしてしまおう。

そう思っていたのに…

dt「お待たせしました。エビに目がないの、変わってないね」

その一言で、私の目論見は呆気なく崩れてしまった。
まさか涼太の方から来るなんて…
さっきまで知らんぷりだったのに、店長自ら料理を運んでくるとか、そんなの反則だ。

もう他人だってあれだけ言い聞かせたはずなのに、微笑む顔も声もあの頃のままの彼を前にして、胸がぎゅっとなる。

「…覚えてたんだ」
dt「そりゃあね。…久しぶり」
「お店持ったんだね」
dt「うん」
「…おめでとう」
dt「…やっとだよ」
「うん、やっと夢が叶ったんだよね」
dt「そうじゃなくて。やっと、祝ってもらえた」
「え？」

その言葉の意味を飲み込めない私に、彼はひとつのグラスを差し出した。

dt「これ、再会のしるしに俺からのプレゼント」