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渋々ながらも、渡された次号の企画書に目を通す。
「えっと、次号の”yellow”の特集は…こだわりの酒蔵巡りね。巻頭12ページの豪華版!か…」
予想通り渋い企画。
世の中にはこのコピーに目を輝かせる人もいるんだろうけど、やっぱり気は乗らない。
それでも、私にこの企画を降りる選択肢など残されていない。
かくして、数日後には私は編集部の先輩数人と山道を車に揺られていた。
『多分この辺だと思うんだけど…』
『あ、あれじゃない?』
ふと目に入ってきたのは、山の奥の奥にポツンと建つ古めかしい酒蔵だった。
聞いたところによると、9代続いているというその蔵は、他所にはない独自の味わいが日本酒通に人気なのだという。
言われてみれば確かに、間近で見ると所々に綻びの目立つその蔵は、伝統的な雰囲気を漂わせている。
『こんにちは、お電話しましたyellow編集部の寺井です』
iw「あー、すみません、ちょっと待っててもらえます?今手が離せないんで」
着いて早々、先輩が中に向かって声をかける。
しかし、何やら奥で作業をしているらしく、遠くからそんな忙しない声が返ってきただけ。
表に出てきてすらもらえない。
私たちは仕方なく、手持ち無沙汰に雑然とした事務所を眺めてみたりする。
戸棚にいくつもの盾が並んでいるのをすごいなぁなんて呑気に思う一方で、体験したことのない静けさの現場には気まずさも感じる。
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作者名:わかめ | 作成日時:2021年3月11日 20時